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中小企業経営者が知っておきたい「第三者承継」を成功に導くM&A戦略…事業譲渡・株式譲渡・企業価値評価の概要【公認会計士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月9日 11時15分

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(画像はイメージです/PIXTA)

後継者不足に悩む日本の中小企業の多くは、M&Aに関心を寄せています。ここでは、M&Aによる第三者承継に焦点を当て、M&Aによって企業価値を最大化させる方法や、事業譲渡から株式譲渡、企業価値評価等の概要について見ていきます。メガバンク出身の公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

事業の成長・承継を目的に活用されるM&A

M&A、すなわち企業の合併および買収には多様な手法があります。これは、事業の成長や承継などを目的として活用されます。具体的な手法として、事業譲渡や株式譲渡に加えて、合併など組織再編の方法が選択されます。

例えば、株式譲渡では、現経営者が保有する株式を「譲受け側」に譲渡し、事業の継続性を保ちつつ、新たな経営体制への移行を図るものです。このプロセスでは、簿外債務が承継されてしまうこと、少数株主の同意を事前に得ておくことなど、さまざまな課題があります。

これに対して、事業譲渡の場合は、事業そのものが「譲受け側」に移転するため、個別資産や負債の承継だけでなく、従業員の雇用契約や知的財産権の移転も慎重に検討する必要があります。

そして、組織再編を通じた法人のM&Aでは、合併株式交換会社分割などがありますが、「譲渡し側」の株主が残ることになるため、その後の株式の現金化が問題となります。

マッチングからデューディリ、最終契約…M&Aの具体的な流れ

M&Aの手順としては、「譲渡し側」がM&Aの実施意思を固めることからスタートします。そして、「譲渡し側」とのマッチング、デュー・ディリジェンス、条件交渉と進み、条件に合意できれば、最終契約を締結します。

M&Aプロセスは、さまざまなステップを含み、多くの関係者が関与します。

M&Aの意向が固まると、経営者はM&A支援機関と協力して情報収集と相談を行います。ここでは、プライベートバンカーや専門家のネットワークが重要となります。企業は自社の財務状況や事業概要を開示し、専門家のアドバイスを受けます。

続いて、M&A専門業者やファイナンシャル・アドバイザーとの契約が行われ、マッチングや交渉の支援が行われます。

「譲受け側」を選定するためには、候補をリストアップして提案を持ち込む相手を選び、M&A支援機関に提案してもらいます。そのうえで、関心を持った候補が出てきたら、秘密保持契約を締結させて、「譲渡し側」の情報開示を行います。そのうえで、「譲受け側」に初期的な提示を行ってもらいます。これが「意向表明」で、譲渡価額、譲渡スキーム、スケジュール、買収後の運営方針などを提示させることになります。

「譲渡し側」が意向表明書に示された条件で合意できるのであれば、その段階で基本合意書を締結し、デュー・ディリジェンスを実施させます。デュー・ディリジェンスを通じて、「譲受け側」は「譲渡し側」の提供する詳細な開示情報を調査します。これには、財務デュー・ディリジェンス、法務デュー・ディリジェンス、事業デュー・ディリジェンスがあります。

「譲受け側」は、デュー・ディリジェンスで見つかった問題点を取引条件に反映させ、最終的な譲渡契約の交渉が行われます。大きな問題点が見つからなければ基本合意で示された譲渡価額がそのまま最終契約に反映されますが、大きな問題点が見つかった場合には、譲渡価額を減額することで合意するケースもあります。

交渉がまとまり、譲渡契約の締結が完了すると、クロージングが行われ、譲渡代金の決済や資産の移転が実施されます。

ポストM&Aのプロセスでは、「譲渡し側」の事業と「譲受け側」の事業の統合が進められます。これをPMI、ポスト・マージャー・インテグレーションをいいます。M&Aは長期間にわたる複雑なプロセスであるため、各ステップでの慎重な検討と、M&A専門家の支援が必要となります。

企業価値を決定する方法

企業価値を決定する方法はいくつかあります。M&Aで使用されるものは、「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「コスト・アプローチ」の3つに大別されます。

M&Aの交渉においては、「譲渡し側」と「譲受け側」の価値評価が異なることが一般的です。「譲渡し側」は事業を高く売却したいと考え、「譲受け側」は事業を安く買収したいと考えるため、初期的な段階ではお互いの価格目線が一致しないことがよくあります。

また、情報の非対称性が交渉を複雑にします。「譲渡し側」は自社の情報を熟知していますが、「譲受け側」はそれを完全には把握できていません。そこで、デュー・ディリジェンスを実施することで、「譲受け側」が可能なかぎり多くの情報を入手し、最終的な条件交渉に活用するのです。

M&Aの目的はシナジー効果、すなわち2つ以上の企業が統合することによる相乗効果です。これによって、単独で事業を行うよりも大きな価値を生み出すことが期待されます。この効果には、売上の増加、コスト削減、研究開発の効率化、財務状況の改善などが含まれます。M&Aによって新たな企業価値を生み出すことが期待されるのです。

企業価値とは、事業価値に非事業資産の価値を加えたものです。また、株主価値は、事業価値から有利子負債などを差し引いた、株主に帰属する価値を意味します。

M&Aにおいて「譲受け側」が使う価値評価の手法はDCF法です。これは、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法です。この方法には多くの見積もりや予測が含まれるため、一定の恣意性が介入する可能性があります。

また、マルチプル法すなわち類似上場企業比較法が使われるケースも多く見られます。これは、類似する上場企業のデータを基に、EBITDAマルチプル、PBR、PERを使用して価値を評価する方法です。比較的シンプルで直感的に理解しやすい方法であるため、金融機関が好んで使用しています。

純資産法では、貸借対照表の純資産を株式価値と見なして評価する方法ですが、そのうち時価純資産法では、資産と負債を時価で評価し直します。

あと、M&A仲介業者が好んで使う方法として、年買法があります。これは、純資産法に基づいた株式価値に、のれん代として営業利益の3年から5年分を加算する方法です。計算がシンプルであることから、中小企業のM&Aにおいてよく使用されています。

企業価値の算定には複数の方法があるため、状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。

M&A専門機関の手数料体系は「レーマン方式」が一般的

M&A専門機関の手数料体系は、とくに決まったものがありませんが、レーマン方式が採用されるケースが多いようです。

レーマン方式とは、M&Aにおいて、M&A仲介業者やファイナンシャル・アドバイザーが受け取る成功報酬を算出するための計算方法です。報酬基準額に対して報酬料率を乗じて算出されます。この方式は、基準額を株式価値とするか企業価値とするによって、成功報酬額が大幅に変動する特徴があります。

岸田 康雄 公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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