エクアドルはなぜウィーン条約違反の暴挙に出たのか メキシコ大使館突入事件の背景
Japan In-depth / 2024年5月2日 11時0分
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・エクアドル警察は首都キトのメキシコ大使館に逃げこんだ元副大統領を拘束するため突入。
・メキシコはエクアドルがウィーン条約に違反したとして同国と断交。
・エクアドル政府が麻薬組織との闘いを展開していることなどが突入の背景にある。
◇「メキシコが先に国際条約違反」と反論
4月初め、南米エクアドルで同国警察が汚職で有罪とされたグラス元副大統領を拘束するためメキシコ大使館に突入するという事件が起きた。この暴挙が外国公館の不可侵権を規定した「ウィーン条約」(1961年)に違反することは明白だ。メキシコがすぐにエクアドルとの国交を断絶し、国際司法裁判所(ICJ)に提訴したのも当然だろう。これに対しエクアドルのノボア政権はこう反論する。「グラス氏は政治亡命者ではなく、賄賂や公金横領で有罪判決を受けた通常の犯罪者であり、同氏を引き渡さないのは1954年の『カラカス条約』に違反する」(エクアドル外務省高官)と主張し、最初に国際法を守らなかったメキシコに非があるという。カラカス条約とは1954年にベネズエラで開催された第10回「汎アメリカ会議」で成立したもので、政治的理由で亡命を求める者に外交的庇護を与えることをうたっているが、一般犯罪者には適用されないとされている。キトの現地メディアによれば、エクアドル政府は今年3月からカラカス条約を根拠にメキシコ大使館に対し、館内に逃げ込んだグラス氏の引き渡しを求めていたという。エクアドルの主張をめぐっては多くの中南米諸国が同調せず、メキシコの立場に支持を表明。ニカラグアもエクアドルと断交、ベネズエラはキトの大使館を閉鎖した。
◇「強硬手段に訴えざるを得なかった」-ノボア大統領
エクアドルが、グラス元副大統領について「政治亡命者」ではなく「一般犯罪者」と強調するにはそれなりの理由がある。同氏は2013年から17年のコレア政権時代に副大統領を務めていた。中南米専門家によれば、コレア政権下では強権的政治運営で国内の安定化が図られた半面、麻薬犯罪組織が台頭し、汚職がはびこったという。
グラス氏は2017年、ブラジルの建設会社から賄賂を受け取った罪に問われ禁固6年、2020年別の汚職容疑で禁固8年の有罪判決をそれぞれ受けている。加えて最近、新たに公金横領疑惑が浮上し、検察が捜査を開始したといわれる。グラス氏をめぐっては汚職や横領容疑だけではなく、麻薬組織との強いつながりも取りざたされている。グラス氏は2022年に仮釈放されたが、その際、エクアドル最大の麻薬組織から多額の保釈金が支払われたとの情報もある。
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