勤続35年以上の大卒サラリーマンなら〈平均1,822万円〉が手元に入るが…退職金の「一時金での受け取り」を安易に選択してはいけない“恐ろしいワケ”【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月13日 17時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
老後資金の大きな要素を占める「退職金」。しかし、「残念な使い方をしている人が少なくない」と、ファイナンシャルプランナーである長尾義弘氏は言います。長尾氏の著書『運用はいっさい無し! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(徳間書店)より、退職金の賢い使い方について、詳しく見ていきましょう。
退職金が出るとは限らない!
老後資金において、退職金は大きな要素です。住宅ローンの返済に、リフォームに、旅行に……退職金を当て込んで、さまざまな計画を立てているでしょう。
ところで、退職金は出て当然だと思っていませんか。じつは、すべての会社に退職金制度が存在するわけではありません。「退職金を支払うべし」と法律で決まってはいないので、退職金のない会社もあります。退職金制度のある会社は、74.9%です。そのうち1,000人以上の企業では90.1%、30~99人の企業では70.1%となっています(厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」)。
では、退職金の平均はどのくらいなのでしょうか。前述の調査によると、勤続35年以上で退職一時金のみの場合は、大卒・大学院卒が1,822万円、高卒(管理・事務・技術職)が1,670万円、高卒(現場職)が1,321万円です。
中小企業については、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年度版)」を見てみましょう。大卒は1,091.8万円、高専・短大卒は983.2万円、高卒は994.0万円となっています。
実際の退職金額は、勤続年数やそのときの給与といった条件によって違います。一度、人事部などで確認しておいたほうが、老後の資金計画に役立ちます。
また、退職前には、会社から退職金や再雇用に関する説明があると思います。ここで大きな問題に直面します。それは退職金の受け取り方です。
退職金の受け取り方法を、一時金、年金、一時金と年金の併用などから選べる場合があります。会社によっては、一時金と年金の割合も変更できます。この受け取り方法で、得をしたり損をしたりすることがあるのです。
一般的には、一時金で受け取ったほうが手取り金額は多くなります。「退職所得控除」があるため、税金面で優遇されるからです。お金の専門家に相談しても、同じように「一時金が得になる」という答えが返ってくると思います。
一方、年金で受け取ると、そのぶんの利息もつきますが、雑所得として所得税がかかってきます。また、所得が増えるので、社会保険料が上がります。その結果、一時金に比べて手取り金額が少ないケースがあります。
しかし、私は一時金で受け取る方法が必ずしもいいとは思いません。
一時金の場合はつい気が大きくなり、「あれれ? 何に使ったんだっけ?」という感じに、あまり計画性を持って使われないことが多いからです。
退職金は「余裕資金」ではない
いずれにしろ、退職金はまとまった金額になります。これほどのお金をいっぺんに得る機会は、人生の中でもそうそうないと思います。
人は大金を手にすると、舞い上がってしまう生き物です。頬が緩み、気持ちが緩み、財布のヒモも緩む。景気よく使い、退職金は羽が生えたように消えていきます。
こんなふうに残念な使い方をする人の、なんと多いことか。
たしかにいろいろなことができますが、勘違いしないでください。退職金は「余裕資金」ではなく、老後生活のための大切なお金です。
定年後は大きな勤労所得はあまり望めません。再雇用では、現役時代より収入が下がることが多いでしょうし、この先働ける年数も限られています。一度資産が減ってしまうと、なかなか取り返すことが難しいのです。退職金は賢く使わなければいけません。
だからといって、運用に走るのは考えもの。もちろん、現役時代から経験していた人が、運用で増やしていくのはいいことだと思います。
しかし、ほとんど経験のない初心者が、いきなり大金をつぎ込むのはオススメできません。多くの場合、運用に失敗し、元本を減らす結果になります。
突然始めて儲けられるほど、投資は甘くありません。筆者自身、成功と失敗を何度も繰り返して経験を積んできました。そうして、ようやく運用というものがわかってきます。
週刊誌やマネー雑誌、ウェブなどでは、「退職金は運用して増やせ」とか「老後資金は運用しないとダメ!」といった記事を見かけます。ですが、それを鵜呑みにしてはダメ! 大事な老後資金を増やすどころか減らしてしまったら、元も子もありません。
「相談」は、失敗につながりやすい方法
「初心者が自力で運用を始めるのは難しい。でも、詳しい人に相談すれば安全じゃないか? きっと、いいアドバイスをもらえるはずだ」
こう考える人もいるでしょう。ところが、さにあらず。相談は失敗につながりやすい方法です。というのも、相談する相手を間違えている人がほとんどだからです。
運用の経験がない人が相談に行く場所は、銀行の窓口など金融機関が多いと思います。これが失敗の元。銀行の窓口は「運用のプロ」ではありません。強いて言うなら、金融商品の「販売のプロ」です。
また、退職金のようにまとまったお金が銀行の口座に振り込まれると、銀行のほうから「運用のご相談にいっらしゃいませんか」と営業の電話がきます。誘いに乗ってのこのこ出かけると、個室に通され、支店長が挨拶にきたり。そのもてなしぶりに有頂天になりがち。そこで、言われるまま契約してはいけません。
銀行の窓口で勧められる商品に手を出すと、痛い目を見る羽目になります。どんなワナが待ち受けているかを解説していきましょう。
退職金特別プランに要注意
「退職金特別プラン」という商品があります。これは、円の定期預金と投資信託などを50%の割合で組み合せた商品です。
定期預金の利率は、なんと7%くらいになっています。たいへんお得に見えるものの、注意書きをよく読んでください。定期預金の金利は「3ヵ月」と、小さく書いてあります。つまり、7%の利率は3ヵ月のみで、あとは通常の金利になります。
一方、投資信託の販売手数料は、2~3%の商品が中心です。信託報酬も、大半は1~2.5%です。これが何を意味するのか。
たとえば、総額1,000万円を、定期預金と投資信託それぞれ500万円で利用したとします。
定期預金 3ヵ月の7%の利息は8万7,500円投資信託 販売手数料は15万円
利息は8万7,500円のプラスになりますが、投資信託の手数料が15万円かかっています。つまり、スタート時点から6万2,500円のマイナスが出ているわけです。
その後運用しても、定期預金はほとんど利息がつきません。投資信託の信託報酬が2%なら、2%以上の運用をしないとプラスにはならないのです。
このようなプランを続けても、老後資金の運用は失敗する可能性が高いと言えます。
「一時払い外貨建て保険」は、リスクの高い商品!
運用で元本が減ってしまうのを怖がる人もいます。そこで陥りやすいのが保険というワナです。保険は元本が保証されていると思い込んでいるんですね。
老後資金の運用では、「一時払いの外貨建て保険」をよく勧められます。
一時払いの外貨建て保険で謳う「元本保証」は、外貨での保証です。円で受け取った場合の元本保証ではありません。ここには為替リスクが潜んでいます。円高になったら、受け取れる金額が元本を下回ることもあるのです。
また、円から外貨に、外貨から円に替える際は、為替手数料もかかります。その他にも手数料がかかります。そのうえ、途中で解約すると、元本を大きく割り込むことも。とにかく、リスクの高い商品だと思ってください。
信託報酬の高い商品は、長期投資では失敗する
金融機関が勧める投資信託にも注意が必要です。なぜなら、販売手数料や信託報酬の高い商品が多いからです。
ネット専用の投資信託の中には、販売手数料がゼロで信託報酬が1%以下という商品もあります。老後資金は長期で運用するため、信託報酬は安いほうが有利になります。また、ラップ口座という商品もあります。これまた手数料が高く、しかも二重に手数料がかかってしまい、失敗につながりやすい商品です。
お勧め商品とお得な商品はイコールで結ばれないことを覚えておきましょう。
もし、老後資金を運用したいのであれば、次のことを心がけてください。これは運用の基本です。
ひとつは、分散投資をすること。
よく「タマゴはひとつのカゴに盛るな」と言われます。ひとつに盛ると、カゴを落としたときに全部のタマゴが割れてしまいます。けれど、複数のカゴに分ければ、ひとつを落としたとしても、ほかのタマゴは影響を受けません。これが分散投資の考え方です。
リスクを分散させるわけです。
それから、退職金の全額を一気に投資しないこと。
前述したように、退職金は余裕資金ではなく老後の大切なお金です。底値のときに投資すればいいのですが、上がり切ったタイミングだと、その後は下がっていくこともあります。多大なダメージを被ったら、目も当てられません。時間を分散しながら投資することをオススメします。
退職金での運用を考えているのであれば、退職金を年金形式で受け取り、「つみたてNISA」を利用するのもひとつの方法だと思います。
また、企業年金を生活費に充て、そのぶん公的年金を繰下げ受給するのも賢いやり方です。
長尾 義弘 ファイナンシャルプランナー
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