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山梨でブドウなら「1日2時間労働で年収450万円」が可能…私が実践している「農FIRE」のススメ

プレジデントオンライン / 2024年4月27日 10時15分

筆者の水上篤さんが営む農業生産法人hototoのスタッフ - 筆者提供

経済的にも精神的にも自由な生活を手に入れるにはどうすればいいのか。農業経営者で山梨県立大学特任教授の水上篤さんは「私が提案し実践するのが『農FIRE』だ。空き家や放棄された農機具を活用すれば生産コストはほとんどかからず、農繁期でも1日2時間程度の労働時間で、年450万円を稼ぐことができる」という――。

※本稿は、水上篤『資金300万円で農FIRE』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■農業でFIREを目指そう

FIREとは、若いうちに資産を作ってリタイアし、あとは資産運用をしながら悠々自適に暮らすこと。

ですが、私が提案し実践する「農FIRE」とは、資産運用だけで暮らす生き方ではなく、「農業」を起点にして衣食住エネルギーを自分で生み出し、お金では買うことのできない土地の恵み、人々とのつながりなどたくさんの豊かさを享受できる状態です。

しかし、農業は大変な割りに儲からないと思っている人は多いのではないでしょうか。農業が大変なのは生産に手間がかかるからで、儲からないのは流通コストがかかるからです。しかし現在では楽な生産手段が出てきていますし、流通コストに関しては、今は直販する方法がいくらでもあるので簡単に抑えられるようになりました。さらに農作物をそのまま売るのではなく、加工することで付加価値を付けることもできます。他にも無農薬にするなど、付加価値を付ける方法がいくらでもあるのです。

あとはこれが王道だと思いますが、高く売れる商品を作ることです。シャインマスカットやブルーベリー、あるいは高級イチゴなどが代表格です。シャインマスカットで言えば、1反(300坪=991.736m2)の農地で年間150万円の売上が出ます。3反の土地があれば450万円です。そこから経費を引いて手元に残るお金は、その50%です。3反で225万円の現金が残ります。一人でできる面積(たまにパートタイマーに手伝ってもらう)は5反が限界かと思いますので、1反75万円の利益×5反で375万円が手元に残ります。そこから、加工品や付加価値を少し付けるだけでも450万円ぐらい得ることはできます。

しかもブドウを育てている私の場合、労働時間は農繁期でも1日2時間程度です。

年4%の運用益で450万円得ようと思ったら、1億1250万円の元手が必要です。いかに農業のコスパが良いかわかるでしょう。

■森林は「宝の山」

農地は富を生み出す「打ち出の小槌」ですが、地方にはさらに大きな「宝の山」が眠っています。それは森林です。

山梨県の県土面積は、4465.27km2ですが78%が森林で、そのうち人工林の割合は44%となっており、主な樹種はヒノキ、スギ、カラマツ、アカマツです。

立木に使用する木材1m3あたり500円、その間の付加価値を計算し住宅に使用する木材が1m3あたり8万円とすると、8万円/m3×15億3248万3066m2で約122兆5986億4531万円になります。全部がきれいな木材にならないとしても、それぐらいの資源が眠っているのです。しかしこの資源は利用されないままになっています。

どうして利用されないかと言うと、木材を切り出して、板にして、材木店を経由してハウスメーカーが購入して家を建てるとなると、最終的に木材1本が数千円になってしまうからです。だったら外国産の板を買ったほうが安いということで、日本の森林の木はずっと切られないで放置されていたのです。

ところがここに来て円安で輸入木材の価格が高騰しています。それでも流通コストを考えると国産の木材はまだ割に合いません。しかし流通コストがかからなければどうでしょうか。都会に直販の木材で家を建てるのは、結局運送費がかかることになりますが、DIYで家を建てたい山梨県内の人は、直接買えるなら買いたいと考えます。空き家は数十万円で買えますから、木材も自分で山から切ってきて、それでリノベーションすれば、ものすごく安く家を建てることができるからです。難しく聞こえるかもしれませんが、それほど難しいことでもありません。実際、私や私の知り合いはそうやって家を建てているのです。

林業
写真=iStock.com/blew_i
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/blew_i

■家や農機具はタダ同然で手に入る

空き家になってしまった農家を買うと、嬉しいことにまだまだ使える農機具その他の機械も一緒に付いてきます。円安が進んでモノの値段は高くなる一方ですが、使える機械や家は放置され、タダ同然で手に入るのです。

空き家とか放置農地などと聞くと「負の遺産」、もっと言えば「ゴミ」と思うかもしれませんが、そういうものを積極的に探して、新たな価値を生むように作り直す――いわば「戦略的ゴミ拾い」が農FIREの秘訣の一つです。私も4万円で購入した機械で、年間1000万円以上の売りが立っています。タダ同然で手に入れた機械がまだまだ使えて、しかも富を生み出してくれるのです。

農業にも補助金はありますが、それを使おうとすると最新の機械を買うことになります。そこで銀行がお金を貸してくれるのですが、気がつけばとても返せないような金額になっていることがよくあります。だからまだまだ使える機械があれば、壊れているところを修理して、積極的に活用することを勧めたいのです。

また今はメルカリ等の二次流通が発達していますから、中古品を安く手に入れることが本当に簡単にできるようになりました。あるいは最新のテクノロジーを活用したい場合でも、たとえばIoTのセンサーは秋葉原などで安く手に入りますし、それらを制御するコンピューターであるRaspberry Pi(通称、ラズパイ)も新品が数千円で購入できます。IoTのシステムを自作している人は多く、意外とハードルは低いのです。

いろいろなモノが安く手に入るわけで、利用しないともったいないと言えます。

ちなみに私が4万円で買った機械は、スチームコンベクションオーブン(スチコン)と呼ばれるものです。温度管理が完璧にできるため、ホテルやフランス料理店などで食材をムラなくきれいに焼くのに使われている、まさにプロ用の機械です。家庭用だと数万円のものもありますが、業務用は数十万円から百万円以上します。私が購入したのはもちろん業務用で、運営する店舗や加工場で大活躍しています。

■農村エリアの物件は不動産屋では買えない

私の住む山梨県は中山間地域が多いため、全国2位の空き家率となっています。県庁所在地の甲府駅から歩いて10分ぐらいのところで、既に空き家がけっこうあるのです。

2021年から「BASHIKA村」というコミュニティを主宰しています。その拠点として甲府駅から徒歩15分ぐらいのところにある山沿いのかなり広い土地を購入しました。いくつもの農家が高齢化で農業を辞めてしまったので空いた土地をまとめて購入したのですが、かなり安く買うことができました。地主から直接買ったら、評価額の10分の1以下の値段だったのですが、むしろ喜ばれました。

BASHIKA村で行ったイベントの様子
筆者提供
BASHIKA村で行ったイベントの様子 - 筆者提供

地方暮らしのブームは何回か来ています。最近ではちょうど団塊世代が一斉に定年退職した15年ぐらい前にブームがありました。その人たちが購入したのは別荘地が多かったため、高齢化により維持できなくなった別荘が現在売りに出ています。そこにコロナ禍での二拠点生活ブームが重なって、長野などの別荘が今人気で、出物があればすぐに売れる状況です。

ただ別荘は高いのです。農家の5倍も6倍もします。ではなぜ別荘ばかり売れるのかと言うと、不動産屋を介して売買されるからです。出物があるという情報がすぐに伝わるわけです。ところがずっと安い農村エリアの空き家はほとんど売れていません。これは一部不動産屋に回る物件もあるのですが、多くの物件は不動産屋に回らないからです。不動産屋を介さず、直接の口コミで「今度あそこが空き家になるみたいだよ」という情報が伝わってくるのです。

■移住すれば空き家情報が入ってくる

だから私のように実際に農業エリアに住んで、農地を借りて農業している人間には情報が入ってきますが、都会の人にはなかなか情報が入らないことになります。元々安いということもありますが、さらに不動産屋に仲介手数料を払う必要がないので、情報さえあれば空き農家は安く手に入るのです。

住宅は私たちでも買えますが、農地については認定農業者しか買えません。したがってはじめは農地は借りることになります。ただ農業をするためには拠点が必要なので、拠点として空き家を購入することになります。

水上篤『資金300万円で農FIRE』(かんき出版)
水上篤『資金300万円で農FIRE』(かんき出版)

なぜ不動産屋に情報が回らないかと言うと、ここは閉鎖的と捉えられるかもしれませんが、地方の人はやはり「素性」をしっかり押さえておきたいんですね。「よそ者が来るのは仕方ないとしても素性のわからない人はごめんだ」という感覚です。都会の人のように簡単に引っ越しできないので、これは仕方のない話です(県によって温度差はありますが)。

とは言うものの、空き家問題はシビアな問題になってきています。これは漁村の事例ですが、漁港の周りに300軒の家があって、そのうち200軒が空き家というところがあります。そうなると海上保安庁などが警戒しているのは、空き家に外国人が勝手に住みつくことなのだそうです。素性が知れないどころの騒ぎではなく、そもそも勝手に空き家に住みつく人たちですから、仮にそれが日本人であったとしても治安の面で問題があると考えられます。

そういった問題の解決の糸口に農FIREがなればという気持ちもあるのです。

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水上 篤(みずかみ・あつし)
農業経営者、山梨県立大学特任教授
1978年、山梨県山梨市生まれ。大学を卒業し、C+A(Coelacanth and Associates)での勤務を経て、26歳で渡米。著名な建築設計事務所での経験を積みつつ、2007年には自らのビジョンを追求するために自身の会社を立ち上げる。帰国後、2009年にぶどう観光農園をリニューアルスタートさせ、2010年に農業生産法人株式会社hototoを設立。関東で最大の週末農業スクールhototoもスタートさせ、卒業生は既に750名以上。その後も、郷土料理店「完熟屋」や子供たちの創造性を育む造形教室「きりんぐみ」をオープンするなどその多岐にわたる活動が認められ、山梨県立大学の特任教授に就任。現在、「農FIRE」を多くの人にも実現して欲しいという思いから「農FIREスクール」を開講している。著書に『資金300万円で農FIRE』(かんき出版)。

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(農業経営者、山梨県立大学特任教授 水上 篤)

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