「袖振り合うも多少の縁」「孫にも衣装」←コレに違和感を抱かなかった人はヤバい…「言い回し」常識チェック
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月8日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
ずっと後になって、自分が言葉を間違えて覚えていたことがわかり赤面したという経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。今回は、山口謠司氏の著書『じつは伝わっていない日本語大図鑑』から、ひょっとすると誤って覚えてしまっているかもしれない「言い回し」をご紹介します。正しい表現やその意味をチェックしましょう。
「琴線に触れて激怒」は誤用。思わず間違えて覚えがちな言葉たち
ずっと後になって、自分が言葉を間違えて覚えていたことがわかり赤面した、などという経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。いえ、気づけばそれでいいのです。正しいほうに修正できたのですから。救済すべきは、いまだ間違いに気づかず、使い続けている人々のほう。
以前、「〇〇さんの琴線に触れて激怒された」と嘆いた人がいました。「逆鱗に触れて」の誤りですが、学生に行ったアンケート調査では、同様の混同以外に、そもそも「琴線に触れる」を「人の怒りに触れる」という意味で使っていた人が7割以上も。
琴線とは、感動する微妙な心情を指し、激怒とは無縁です。ここに、誤りがちな例をいくつか挙げてみますので、頭の中にある記憶と照らし合わせてみてください。ちょっと恥ずかしいミスが、会話を滞らせていることがあるやもしれません。
「渡る世間は鬼ばかり」!? 正しくは「渡る世間に鬼はなし」
×袖振り合うも多少の縁 → ○袖振り合うも他生の縁
どの人も、この世で出会う人や交わる人、また身の回りで起こる出来事も、すべて前世からの宿縁である、決められていた縁である、という意。たとえ、道ですれ違って、たまたま(着物の)袖が軽く触れ合っただけの見知らぬ人ですら、そうした縁なのです、と。人生は全部そうなのだということですから、「多少」ではないのです。
「他生」とは前世と来世のこと。また、何度も生を変えてこの世に生まれ出ることを表す「多生」と書く場合もありますが、どちらも同じ意味です。
×孫にも衣装 → ○馬子にも衣装
「マゴ」という音だけを聞けば、すぐに「孫」と思うのは無理もありません。ここでいう「馬子」とは、馬をひいて人や荷物を運ぶ仕事をする人のこと。今はもうなくなった職業ですが、でこぼこ道や坂道でもヨイショ、ヨイショ。着ているものも質素で、きっと汗まみれだったことでしょう。
そんな人でも、着るものを見栄えよくして、外見を美しく整えれば、立派に見える、というわけです。誰でも外だけでも飾れば、それなりに見える――。中身については何もいっていないのがミソではありますが。
×渡る世間は鬼ばかり → ○渡る世間に鬼はない
『渡る世間は鬼ばかり』は、橋田壽賀子氏の脚本によるテレビドラマのタイトル。高視聴率の長寿番組だったため、多くの人の頭の中に、こちらのほうがこびりついてしまっているようですが、正しくは「――に鬼はない」です。
厳しい世の中で生きていくのは大変なこと、他人は冷たそうに見えるし、自分のような者を助けてくれそうにない……そう思っている人もきっと多いはず。でも、実は世間はそうではありません。困っている人を助けたり、慈悲深い心を持っている人はどこにでもいるもの、という意味を持つ言葉です。
×琴線に触れて激怒された → ○逆鱗(げきりん)に触れて激怒された
逆鱗とは、竜のあごの下にある逆さのウロコ。触れたら竜が怒ってその人は殺されてしまう、という中国の故事があります。竜は天子(君主)をたとえているもので、「逆鱗」とは、すなわち「天子の怒り」のこと。そこから転じて、「目上の人の怒りに触れる」といった意味に。地位・階級・年齢などが自分より上の人を怒らせてしまった場合に限りますから、目下の人に使うのは誤りです。
一方、琴線は、胸の奥で感動し共鳴する心情のこと。「琴線に触れる」は、素晴らしい人柄や芸術作品などに深い感銘を受ける、となります。
山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授
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