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「面倒を看てくれてありがとう。全財産3,000万円は愛娘へ」80代父の死後、なぜか銀行から門前払いを受ける長女…世間知らずな親子に訪れた悲劇【CFPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月9日 11時45分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

婚姻の約4件に1件が「再婚」となっている日本。そのうちの2~3割程度は子連れでの家庭を築いています。複雑化する家族の形のなかで、問題となるのが遺産相続。本記事ではAさんの事例とともに、再婚家庭における相続の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。

婚姻の4件に1件は「再婚」

社会が多様化していくなかで家族の姿もさまざまな形があります。

結婚する男女は減少の一途をたどっており、内閣府男女共同参画局のデータによると、令和2年は52万6,000件、令和3年は51万4,000件と戦後で最も少ない件数となりました。一方で全婚姻件数に占める再婚件数の割合は1970年代以降増大傾向にあり、令和2年の再婚件数は13万9,000件と、婚姻の約4件に1件は再婚となっています。

夫婦いずれかに子どもがおり、再婚して子連れで家庭を築く家族は、ステップファミリーと呼ばれています。正確なデータはないのですが、13.9万件の再婚件数のうち2~3割程度はステップファミリーと推測する試算もあります。

良い悪いはまったくありませんが、家族の形が複雑になる傾向があり、人生の計画を立てていくうえでステップファミリー内での家族関係をどう位置付けておくかは、未来を安心して過ごすうえで大切なポイントになってきます。

40年前に出会った両親

75歳のAさんは、妻Bさんと2人で穏やかな老後を暮らしています。とても幸せな老後生活を営んでいる2人ですが、過去にはさまざまなことを乗り越えてこの平穏な暮らしへとたどり着きました。

Aさんには28歳のころに離婚歴があります。若かりしころの勢いで結婚したものの最初の結婚相手とは価値観の不一致もあり、子どももいなかったため離婚するまでの時間はかかりませんでした。離婚後はしばらくパートナーを探す気にもなれず、仕事に没頭して過ごしていました。そんなAさんに転機が訪れたのは、40歳を過ぎたころのことです。これが、取引先に事務員として入社してきた同世代のBさんとの出会いでした。

お互いの家庭事情はあまり詳しくなかったのですが、ある日の取引先の忘年会に呼ばれたAさんは隣の席になったBさんとお互いの家族歴を少しだけ明かし合うことがありました。Bさんはご主人の暴力的な振る舞いが原因となり、取引先への入社前にちょうど離婚をしていたのです。

お互いに離婚歴のある再婚夫婦

Bさんは、2人の子どもの親権をもち、子どもの将来を守るために就職して懸命に働いていました。もともと温厚で優しい性格のAさんはBさんの苦労話を聞いて、力になりたいと思い始めます。

どこか心に隙間風が吹いていたBさんもAさんに惹かれるのにそれほど時間はかかりませんでした。お金の面での心配もあったことから仕事熱心で経済力のあるAさんの姿は、非常に魅力的に映りました。

こうして2人は晴れて再婚することに。

歩み寄りの努力のおかげで、仲の良い家族に…

結婚後は、BさんがAさんの戸籍に入ることにしたのですが、Bさんの連れ子である中学生のCちゃん、小学生のD君の2人の子どもはそれぞれ性格が違うこともあり、再婚相手のAさんと上手く過ごせるかどうか、未知数でした。Bさんの前夫は、妻には暴力的な振る舞いがあったとはいえ、子ども達(特にCちゃん)に対しては優しい側面があり、Cちゃんはお父さんとの思い出を大切にしているように映りました。

暮らしてみなければ、前のお父さんと新しいお父さんとの感情の狭間でどのような家庭を築けるかはわかりません。子どもとAさんの養子縁組に関して、AさんもBさんも少しは頭をよぎることもあったのですが、再婚してBさんがAさんの戸籍に入ること以外は深堀りすることなく新しい暮らしを始めたのでした。

再婚後、AさんとBさんはともに必死で働きました。

2人の仲のよさを見ていたCちゃんとD君も、やがてAさんのことを新しいお父さんとして受け入れ、再婚後は本当の家族として過ごすことができたのでした。

母も義父も年を重ね…

――それから20年の月日が流れます。Aさん、Bさんはともに退職を迎えて老後の暮らしに入りました。Cさん、D君も成人となりお互いがそれぞれの家庭を築きました。

20年前に再婚したということも、新しい家族を築いていくことに大きな不安を感じていたこともすべて「あんなこともあったね」と楽しい思い出に変わりつつありました。

ところが、この先さらに20年の年を経て、こんなはずではなかったというときがCさんに訪れます。

両親の他界

幸せな老後を過ごしていたAさんとBさんですが、Bさんは突然の病に倒れます。脳梗塞でした。ほとんど治療もできずにあっという間に70歳で他界してしまったのでした。

残されたAさんは気を落としましたが、幸いなことに近くで暮らしていたCさんがAさんの暮らしを献身的にサポートしてくれました。日常の炊事、洗濯、買い物、さらには入院や介護施設への入所の際の保証人にもなるなど、献身的なサポートを約10年間も続けたのです。そんなCさんが支えたAさんの人生もやがて終わりが訪れます。

軽度な認知症だったAさんですが、Cさんに伝えます。

「妻(Bさん)と再婚できて本当によかった。私のことを父親として受け入れてくれてありがとう。Cちゃんにも本当に世話になったね。私には実の子どもがいないから、財産(3,000万円)はすべてCちゃんに託すよ。D君とも相談して、Cちゃんを中心に私の財産は引き継いでおくれ」

CさんもAさんのことを実の父親のように関わっていたため、涙を流しながら「お父さんありがとう」と応じます。そしてAさんは80歳で安らかにあの世へと旅立ったのでした。

銀行からは門前払い、弁護士からも非情な事実を突きつけられ…

Cさんは悲しみもほどなくして、Aさんが残した言葉を実行に移し始めます。取引銀行に相談することから始めたのですが、取引銀行からの一言は、

「CさんはAさんと養子縁組をしていませんから、相続する権利はありません。それ以上お答えできることはありません。相続人からの手続きが必要です」

とまったく門前払いの状態でした。

これまでの経緯、いきさつを懸命に話してみたのですが、銀行が応じる気配はまったくありません。そもそも戸籍謄本の取得すらまともに進まないのです。唯一連絡の取れたAさんの弟の協力を仰いで戸籍謄本を取得できたのですが、さらにCさんの気持ちは追い詰められていきます。

Aさんには弟以外に姉がおり、その姉はすでに他界していました。弁護士にも相談したところ、Aさんの相続人は弟、すでに他界した姉の子どもの3人が相続人になると告げられました。CさんはAさんに姉がいることもなんとなくしか聞いていませんでした。ましてやその子どもたちとなると、居場所すらはっきりとわかりません。Aさんが亡くなる前の「遺産はすべてCちゃんに」という言葉は、いっているだけであり、Cさんは中心どころか蚊帳のなかにすら入れてもらえなかったのでした。

感情面で大きなためらいがある「養子縁組」

戸籍における関係をあまり重視せずに、実際の人間関係のなかで生きていくということは当然にありえる話なのですが、その状態はともすると単なる赤の他人という関係になってもしまいます。

養子縁組というのは法律的な権利義務の関係が生じることになること以外に、感情面での課題が生じる可能性がありますから、決して簡単な判断とはいえないでしょう。それでもAさんを親身にお世話したCさんが、蚊帳の外の人になってしまうという現実は、ともに暮らして支えてきた経緯を考えるとあまりにやるせない事態ではないでしょうか。

Aさん、Cさんはどうすればよかったのでしょう? 非常にシンプルな答えとして、遺言書を書いておくということが挙げられます。遺言書さえあれば、万が一Aさんの弟たち兄弟が遺言書の内容に不平不満があったとしても、兄弟姉妹には遺留分という最低限の遺産を請求できる権利はありません。

遺言書のとおりに遺産をCさんが受け取ることができます。また、月日が流れたなかでの養子縁組であれば、再婚当時と大きく気持ちも状況も違うでしょうから、Aさんの晩年にきちんと養子縁組をしておくということもひとつの選択肢です。いずれにしろ、Aさんが元気なうちにしておく必要がある手続きです。

「遺言書」「養子縁組」という言葉だけを見ていると難しくて、ハードルが高く感じる心理的プレッシャーがあるかもしれませんが、内容のシンプルな遺言書であればさほど難解なことではありません。養子縁組の手続きも複雑な手続きではないのです。

元気なうちに意思表示をして、築き上げた新しい家族、親子関係の思い出、感謝の気持ちのなかで暮らして、人生をまっとうしたいものです。人生を生ききるうえでの準備、そのうえでの必要な手続きは必ずやっておきたいものですね。  

※本記事は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役

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