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「挨拶はコスパが悪い」なんて誰が言った? 85年にわたる「幸せ研究」がたどり着いた幸福の秘訣【ハーバード大教授に聞く】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月4日 12時15分

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2,000人以上の人生を85年かけて調査した「ハーバード成人発達研究」が明らかにした、幸福で健康的な人生を送るためのカギは? 同調査をもとにした書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版)の著者・米ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏にお話を伺いました。

85年かけてたどり着いた「幸福」の秘訣

幸福で健康な人生を送るためのカギは「よい人間関係」だった――

2,000人以上の人生を85年かけて調査した「ハーバード成人発達研究」をもとにした、人々の幸福の秘訣を解き明かす書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版)。2023年6月に発売して以来、順調に版を重ね累計発行部数6万部を突破しています。

一方、日本では孤独・孤立の問題を「社会全体の課題」と位置づける孤独・孤立対策推進法が4月1日に施行され、コロナ禍を経て“人とのつながり”の重要性が改めて見直されています。

同書の著者*で米ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏に「人とのつながり」をテーマにお話を伺いました。 *ハーバード成人発達研究の副責任者であり、ブリンマー大学の心理学教授でもあるマーク・シュルツ氏と共著。

「挨拶は意味がない」って本当?

――「幸福」と言えば、毎年3月に「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」、いわゆる「世界幸福度ランキング」が発表されています。今年の日本の順位は51位でした。日本のランキングの低さは人生の選択の自由度や寛容さに課題が足を引っ張っているとしばしば言われます。この本にも書かれていましたが、他者に対して寛容であることは大事なポイントでしょうか?

ロバート・ウォールディンガー氏(以下、ウォールディンガー):他の人に寛容であるというのは幸福度につながるのは間違いないです。寛容さというのは、必ずしもお金を与えるとか寄付するだけではなくて、自分の時間を誰かに費やす、助けるために手を差し伸べる、自分が知っていることを教えてあげるなども含まれます。 ――本では「コーヒーをテイクアウトする際にバリスタ(被験者にとっては見知らぬ人)に微笑みかけ、軽い世間話をした人は、できるだけ効率的に行動するように指示された人よりも気分がよくなる」という実験結果も書かれていました。日本ではSNSなどで、「挨拶なんて意味のないことをするのはコスパが悪い」「こっちは客なのだから、店員に『ありがとう』というのは意味がわからない」などという主張が繰り広げられることがあるのですが、先の実験はそれを覆す結果なのかなと思いました。 ウォールディンガー:そんなふうに考えている人がいるというのは私も知っています。しかし、知らない人との会話が実は幸福度を上げるというシカゴの電車の実験でも明らかになっています。 「電車の中の見知らぬ他人」という実験なのですが、2つのグループに分かれて1つのグループにはいつも電車の中でしていること、音楽を聴いたりスマホをいじったりするように指示しました。もう1つのグループには、知らない人に話しかけてくださいとお願いしました。

実験の前に被験者に「(見知らぬ人に話しかけるのと話しかけないのでは)どちらが気分よく過ごせると思う?」と聞いたところ、大部分の被験者が「見知らぬ人に話しかけるなんて不快な経験になるだろうから、黙って過ごすほうが快適なはず」と予測していました。しかし、現実は予測とは正反対でした。隣の人に話しかけた大半の人は普段の通勤時より気分の良い体験になったのです。

この実験からわかることは、人間は自分の感情を予測するのが得意ではなく、特に人間関係がもたらすメリットを予測するのが下手ということです。つまり、自分がどんなことで幸福になるかなんてちゃんとわかってはいないということなんですね。

友達は100人いないとダメ?

――日本特有の事情かもしれないのですが、「友達100人できるかな?」のような、友人は多ければ多いほどいいという風潮もあります。また、「みんなと一緒じゃないと不安」のような同調圧力が働いて孤独を好む人にとっては生きづらいのかなと感じることもあるのですが……。

ウォールディンガー:もちろん一人でいるのが好きでたくさんの人と一緒にいるとストレスがたまってしまう人もいます。それは健全なことで全然問題ではないんですよね。100人も友達を作る必要はなくて、1人か2人、問題があったときに助けてくれる人がいればいいんです。

科学が私たちに教えてくれる真実

――副題に「幸せになるのに、遅すぎることはない」とありますが、改めてそう確信する根拠を教えてください。

ウォールディンガー:「人が計画すれば、神は笑う」というイディッシュ語のことわざがあります。つまり、自分たちは分かっているようでわかっていないということなんです。「自分は孤独だ」「誰ともつながれないんだ」と思っているかもしれないけれど、85年以上の研究で本当に予想もしていなかったことが起こる。

私自身のことを振り返ってみても、子どもの頃に「あなたは研究者になるんですよ」と言われたら「まさか! なりたくないよ」と言っていました。人間関係にも同様のことが言えます。そういうわけで、何が起こるかなんてわからない。「自分が自分の人生の専門家とは限らない」ということなんですね。この気付きを受け入れ、自分がすべての答えを知っているわけではないことを受け入れるとき、新たな可能性が開けるんです。

――日本では「親ガチャ」という言葉が生まれ、どんな親の元に生まれるかで自分の人生が決まってしまうという考え方が広まっています。もちろん、どんな親の元に生まれても、どんな環境にいても平等に教育を受けることなど社会として取り組んでいかなければならないのですが、閉塞感が漂っている世の中で、読者に向けてのメッセージをお願いしたいです。

ウォールディンガー:多くの人の研究を通してわかったことなのですが、子供時代の経験がその後の人生に及ぼす影響は大きいというのは確かなのですが、しかし、大人になったらすごく幸せになった例もたくさんあります。自分の親はすごく難しい人たちだと「人間ってみんな嫌な人たちなのかな」と思ってしまいがちなのですが、それでも生活のルーティンを変え、人とつながって良い関係を築けた人たちはよい人生を送っているというのが研究でわかっています。

「良好な人間関係は私たちを幸せにし、健康にし、長生きさせてくれる」これは人生のどの段階にいても、どのような社会や文化の中で暮らしていても、どのような状況に置かれていても当てはまります。それが科学が言えることであり、これまで生きてきた人類にとってもほぼ当てはまる真実です。

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