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亡くなる直前の贈与なら相続税の対象に…「生前贈与加算」注意点を税理士が解説

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月9日 9時15分

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※画像はイメージです/PIXTA

「相続に備えて、財産を子供に贈与していたのだから、相続税が課税されることはない」と安心……それが、そうはいかない場合があります。相続開始前3年以内に贈与された財産については、相続財産に加算して相続税が課税されることになっています。さらに、令和6年以降に贈与された財産については、その期間が段階的に7年にまで延長されます。一般に「生前贈与加算」といわれる制度について、詳しくみていきましょう。

「生前贈与加算」制度の概要

相続などにより財産を取得した人が、被相続人(亡くなった人)からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価額に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します(※1)。また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります(※2)。

これだけでは分かりづらいと思いますので、具体的に考えてみましょう。たとえば、平成30年の時点で、父Aには5,000万円の財産があったとします。相続税の支払いをしないようにするために、父Aは、毎年、子Bの誕生日6月15日に財産を贈与することにしました。とはいえ、高い贈与税が課税されては元も子もありません。贈与は110万円まで課税されないと知り、毎年100万円ずつ子Bに贈与をしていました。

平成30年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和元年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和2年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和3年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和4年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和5年4月5日に父Aが死亡し、その時点での父Aの財産は4,500万円

この4,500万円を子Bがすべて相続したとします。この相続財産4,500万円に、父Aが死亡した日からさかのぼって3年以内(令和2年4月5日から令和5年4月5日までの間)に、被相続人である父Aから子Bに贈与された財産300万円(100万円×3年分)を加算して相続税を計算することになります(上記※1に対応)。

このように贈与税が課税されなかった贈与財産についても、相続開始前3年以内の贈与であれば、相続財産に加算されることに注意してください。この4,800万円から基礎控除額を差し引いたものが相続税の課税遺産総額になります。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

上記の事例の場合、相続人は、子Bのみなので、法定相続人は1人。よって、基礎控除額は3,600万円(3,000万円+600万円×1人)となります。

相続財産4,800万円―基礎控除額3,600万円=1,200万円(課税遺産総額)

上記の事例の課税遺産総額は、結局1,200万円。この場合の相続税の税率は15%、控除額が50万円。

1,200万円×15%-50万円=130万円(相続税)

参考までに、生前贈与加算がなかった場合は課税遺産総額900万円となり、相続税は以下のようになります。

900万円×10%=90万円(相続税)

生前贈与加算という制度があることによって、今回の事例でも40万円違ってきます。

贈与税と相続税で「二重課税」にならないのか?

上記の事例では生前には贈与税を支払っていませんが、生前に贈与税を支払っている場合には、その贈与税と相続税で二重に課税されることにはならないのだろうか? と思われる方もいるでしょう。

二重課税を回避するために、「加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除される」ことになっています(上記※2に対応)。

では、先程の事例で、父Aが子Bに毎年300万円ずつ贈与していたと考えてみましょう。

■平成30年6月15日

300万円(贈与を受けた額)-110万円(基礎控除額)=190万円

190万円×10%=19万円(この19万円を贈与税として納税)

■令和元年6月15日

300万円-110万円=190万円

190万円×10%=19万円(贈与税として納税)

令和2年6月15日

300万円-110万円=190万円

190万円×10%=19万円(贈与税として納税)

令和3年6月15日

300万円―110万円=190万円

190万円×10%=19万円(贈与税として納税)

■令和4年6月15日

300万円―110万円=190万円

190万円×10%=19万円(贈与税として納税)

■令和5年4月5日

父Aが死亡し、その時点での父Aの財産は3,500万円。この3,500万円を子Bがすべて相続したとします。この相続財産3,500万円に、父Aが死亡した日からさかのぼって3年以内(令和2年4月5日から令和5年4月5日までの間)に、被相続人である父Aから子Bに贈与された財産900万円(300万円×3年分)を加算して相続税を計算することになります(上記※1に対応)。この4,400万円から基礎控除額を差し引いたものが課税遺産総額になります。

基礎控除額は、上記と同様に

3,000万円+600万円×法定相続人1人=3,600万円

相続財産4,400万円―基礎控除額3,600万円=800万円(課税遺産総額)

この場合の相続税の税率は10%なので、

800万円×10%=80万円

この場合、80万円の相続税の納付が必要に思われますが、これでは、贈与額900万円について、二重に課税されていることになってしまいます。ですので、この場合は、令和2年から令和4年分として納付した贈与税57万円(19万円×3年分)について、上記の80万円から控除されることになります(上記※2に対応)。

80万円―57万円=23万円

この23万円が、子Bの納めるべき相続税ということになります。このように、相続税と贈与税で二重に課税されるということはありません。

生前贈与加算の対象期間が7年に延長

税制改正により、令和6年以降に贈与される財産については、生前贈与加算の対象期間が段階的に延長されます。

令和8年までに相続が開始した場合は、これまでどおり「相続開始前3年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。

令和9年から令和12年までに相続が開始した場合は、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になります。

令和13年以降に相続が開始した場合は、「相続開始前7年以内の贈与」が生前贈与加算の対象になります。

なお、この改正により延長された期間(生前贈与加算の対象期間のうち相続開始前3年より前の期間)に行われた生前贈与については、総額100万円まで生前贈与加算の対象にはなりません。

これらの改正についても、先程の事例をもとに解説しましょう。贈与と死亡の年、贈与の回数は変えています。

令和5年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和6年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和7年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和8年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和9年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和10年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和11年6月15日 100万円贈与(非課税)

令和12年4月5日に父Aが死亡したとします。死亡は令和12年であるため、「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象になり、その総額は600万円(100万円×6年分)となります。ただし、相続開始前3年より前の期間の贈与(この例では令和6年分~令和8年分)は100万円まで加算しないため、上記600万円から100万円を引いた500万円を相続財産に加算します。

生前贈与加算の注意点

生前贈与加算には、他にもいくつか注意点があります。

生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈によって財産を取得した人のみ

たとえば、被相続人が、生前お孫さんに多額の贈与をしたとします。ただ、このお孫さんが相続人にならず、遺贈も受けないというのであれば、お孫さんに生前に贈与した財産について、生前贈与加算の対象にはなりません。逆に、お孫さんが相続人になっているか、又は遺贈を受けている場合には、お孫さんに生前贈与した財産について、生前贈与加算の対象となります。

贈与財産が加算される場合、相続時の価額ではなく、贈与時の価額を評価額とする

贈与財産が現金であれば、その価額は変わりないのですが、贈与財産が不動産や有価証券などの場合、価値の変動が考えられます。たとえば、贈与財産が株式だったとして、贈与時の価額が1,000万円だったのが、株価の突然の下落により、相続時には10万円になっていたとしても、1,000万円の価額で相続財産に加算されることになります。

贈与財産のうち、下記のものは、例外的に相続税の課税価格に加算されません

①贈与税の配偶者控除

20年以上連れ添った配偶者(婚姻届出日から贈与日までの期間が20年以上)に、居住用不動産又はその取得資金を贈与したときには、2,000万円までは贈与税の課税の対象から控除されるものです。この2,000万円に贈与税の基礎控除額110万円を足した2,110万円までは非課税となります。

この制度の趣旨は、税制上配偶者を優遇することによって、配偶者の生活を安定させるというものです。とすれば、贈与税の時に優遇しておきながら、配偶者の一方が死亡したときには、相続税の課税価格に加算するというのでは、それこそ、生存している配偶者の生活が不安定となってしまうので、生前贈与加算の例外とされています。

以下の②~④についても、税制上、贈与税の時に優遇しておきながら、相続税の課税価格に加算するというのでは、贈与税での優遇がないがしろにされてしまうことになるので、生前贈与加算の例外とされています。

②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額

令和8年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、一定の限度額までの金額について贈与税が非課税となります。

③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額

平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、教育資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません。

④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、贈与税の非課税の適用を受けた金額

平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、結婚・子育て資金として一括贈与を受けた場合、贈与を受けた価額のうち一定の価額については、贈与税の課税価格に算入されません(国税庁HP タックスアンサー№4511)。

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以上から、「相続に備えて、財産を子供に贈与していたのだから、相続税が課税されることはないよ」と必ずしも安心できないことが分かります。相続開始直前の贈与というのは、相続税の節税にならないことがあるということはお分かりいただけたでしょうか。そのため、相続税対策するためには、できるだけ早めにされる方が効果的です。

一方で、もし、急に余命いくばくもないと余命宣告をされた場合に駆け込みの対策をするのであれば、贈与する相手を孫などの相続人以外の人にしたり、または、価額の急騰が予想される財産を贈与するのであれば、一定の効果が得られるかと思います。

自身で判断するのが難しい場合には、事前に相続税の専門家に相談した方が良いでしょう。

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