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富裕層も一般人もどんどん国外に逃げ出している…習近平主席の政策が中国経済立て直しに逆効果となる理由

プレジデントオンライン / 2024年3月11日 9時15分

全人代江蘇省代表団の討議に参加する習近平総書記(国家主席)=2024年03月05日、中国・北京 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■党主導の景気回復策には不安が残る

3月5日、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕した。今回の全人代で明確になったのは、これまでに増して政権による経済・社会の統制が強まったことだ。それは、李強首相の「習近平同志を核心とする党中央の指導のもと、全ての民族・人民が団結した」との政府活動報告にも表れている。今回は、これまでの慣行を破って全人代の閉会後の首相会見も廃止した。

その背景に、権力を政権に集中し党主導の政策運営体制の強化を図りたいとの意図があるのだろう。政権の統制の強化につながる法令や委員会なども増やした。本来であれば、低迷する景気の回復への政策が多く出されるべきだろうが、具体策の提示には不安を感じた専門家も多かったはずだ。

今後、景気の低迷が続くと、一般市民の不満が蓄積することも懸念される。不動産デベロッパーや、地方政府傘下の融資平台の不良債権問題は深刻だ。李強首相は外資誘致を積極的に促進する考えのようだが、統制型経済の状況では海外に脱出する企業は増えることも考えられる。また、中国を離れ海外移住を目指す人も増える可能性もある。統制強化によって、中国経済が個人消費主導型へとモデルチェンジすることは難しいだろう。

■「反スパイ法」の改正がそれを象徴している

近年、中国政府は党指導部への権力集中を強化してきた。今回の全人代は改めて、統制強化を徹底する政府の考えを確認する機会になった。2023年の法律の運用、各種委員会の設置、今回の全人代での報告内容を見ると、いかに統制強化を重視しているかが確認できる。

昨年7月、中国は改正版の“反スパイ法”を施行した。2014年に習政権は反スパイ法を制定し、国家の安全を脅かすとみなす外国人などを厳しく取り締まった。スパイ法の改正によって、取り締まりの対象は拡大した。国家の機密情報、安全保障に関する情報やデータを盗み取ろうとする行為、サイバー攻撃などがスパイ行為とみなされる。スパイの疑いがある人物の出国、疑いがある外国人の入国も認めない。

■「安全」を29回も繰り返した首相の真意

金融取引や言論も、反スパイ法の取り締まり対象になった。中国の国民や組織は、スパイ行為を見つけたら当局に通報しなければならない。全人代前の2月下旬、“国家秘密保護法”も改正した。反スパイ法、国家秘密保護法ともに違反対象の定義はあいまいとの見方もある。SNSで「景気の低迷が心配だ」とのつぶやき、外資企業による中国の需要調査なども摘発対象になるかもしれないという。

経済政策を担った政府の高級官僚の権限も、当直轄の組織に移管した。有能な金融政策のプロ集団との評価が高かった、中国人民銀行(中央銀行)は中央金融委員会の管理下においた。歴史的に、為政者が金融政策に強い影響力を及ぼした結果、長期にわたって経済にプラスの効果が増えたケースはあまりないだろう。また、IT先端技術の研究開発強化などは中央科学技術委員会が管轄する。

全人代の政治活動報告の中で、李強首相は“安全”という言葉を29回使った。一連の法令の強化、党傘下の委員会への政策立案権限の収容と合わせると、「党の意向に従うことが中国国民の安全を支える」とも解釈できる。

■富裕層も一般市民もどんどん逃げ出している

政府から党へ経済運営などの意思決定権を移し、社会への管理・監視体制しているのは、政治力を高めることが目的とみられる。長期の政権維持の基盤を築くことが重要な目的なのだろう。国防費が前年から7.2%増加したのも、政権基盤を堅固にする一つの手段とも考えられる。党指導部の権力を強化して、政権の価値観を社会心理に強く浸透させる。それは強力な統制の効果といえる。

一方、統制強化から発生する問題は多いはずだ。中国から海外に財産を移したり、移住したりする民間企業の創業経営者など富裕層は増えた。著名女優のファン・ビンビンが当局に拘束されたのは有名な話だ。当局に拘束される民間企業の経営者も増えた。

足許では、一般市民がより自由な環境を求め、海外を目指す傾向もみられるようだ。米国、カナダ、オーストラリア、日本、タイ、欧州などに移り住もうとする人は増えているという。2023年、南米経由で米国への密入国を試み、メキシコとの国境地帯で拘束された中国不法移民は前年の10倍に増えた。

■統制を強めるほど、ヒト・モノ・カネが流出していく

企業の海外脱出も増えた。それと同時に海外からの直接投資は減少した。2023年、外資企業の中国投資は過去30年ぶりの低水準だった。不動産バブル崩壊によるデフレ環境の鮮明化、需要の低迷懸念、“ゼロコロナ政策”で明らかになった予測困難な政策、台湾問題、人権問題など、外資離れ加速の要因は多い。本土ではなく海外市場での新規株式公開(IPO)を目指す中国の企業も増えた。

今回の全人代で統制強化が一段と明確になり、今後、海外移住を目指す中国人や海外移転を目指す中国企業は増える可能性がある。自由に活動できないとなると、人も企業もより自由な環境を目指すことになる。反スパイ法のリスクなどを回避するため、インドなど成長期待が高く人件費も相対的に低い場所に拠点を移す海外企業も増えるだろう。

■「国内消費で経済成長を目指す」としているが…

統制強化で中国の国民や企業の自由を制約すると、結果的に経済のダイナミズムを減殺することになる恐れがある。現在、中国は、これまでの輸出・インフラ投資主導の経済構造から、国内の個人消費主導へとモデルチェンジを図っているところだ。

リーマンショックまで、中国は豊富かつ安価な労働力を強みに“世界の工場”としての地位を確立した。インフラ投資や輸出主導の経済運営により高成長を遂げた。リーマンショック後、世界の需要減少に直面した中国は、輸出から国内の投資へと切り替えた。マンションなどの不動産投資、高速道路や鉄道などのインフラ投資、企業の設備投資などを増やした。

写真=iStock.com/dk1234
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dk1234

過去のピーク時、不動産関連の需要は中国のGDPの30%近くに達したとの試算もあった。ところが、不動産バブル崩壊で投資牽引型の経済モデルは限界を露呈した。

今回の全人代で李強首相は、中央政府の財政支出を増やして家電など耐久財の消費を振興し、内需の拡大を実現して5%前後の経済成長率の実現を目指すとした。内需拡大によって、雇用・所得環境の改善と安定も実現する考えだ。

■党主導の政策は裏目に出る可能性が高い

しかし、今後の中国が、すぐにそうした方向に向かうとは考えづらい。特に、不動産企業や地方政府の債務問題が深刻化する中、政府の不良債権問題処理はあまり進んでいない。不良債権問題が残る中、デフレ圧力は高まり個人消費も盛り上がらない。統制強化は人々の不安や不満を増幅し、消費や投資意欲が減退する恐れも高い。それは個人消費の減少要因だ。

李強首相は、海外企業の誘致にも積極的に取り組むという。しかし、統制強化に加え、景気低迷懸念の高まり、地政学リスク、先端分野での米中対立の先鋭化など、海外企業の阻害要因は増える。目標とは裏腹に、外資の海外流出が勢いづく恐れのほうが高いかもしれない。

全人代で政権が統制強化を明確化した結果、中国が個人消費主導の経済運営を目指す難しさは増したと考えられる。2023年のGDP成長率がゼロコロナ政策終了による反動に押し上げられたことも踏まえると、5%前後の成長実現は難しいだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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