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「これでは教育虐待だ」多忙を理由に妻任せにしていた子育てにようやく夫が向き合うようになった衝撃事件

プレジデントオンライン / 2024年3月26日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

中学受験をきっかけに夫婦仲が悪化したときはどうすればいいか。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「一時的に中学受験の“沼”にはまることは多く、そこから離れて冷静になると、夫婦仲を修復できることがある」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して一部変更しています。

■周りの影響で中学受験

会社経営者のA夫さん(34歳)は、知人の紹介で知り合った3歳年下の会社員の女性と交際して結婚しました。

A夫さんは仕事がとても忙しく、妻は結婚を機に退職して、専業主婦としてA夫さんを支えました。

結婚から3年後に、長男が生まれました。A夫さんも妻もごく平均的な学歴で、当初は2人とも、子どもの教育に特段熱心というわけではありませんでした。

長男は近所の公立小学校に通い始めましたが、素直に勉強に取り組む性格で、先生からはよく褒められる子どもでした。

長男が3年生になった頃、妻は「中学受験をさせたい」と言い始めました。A夫さんが理由を聞くと、「みんな“中受”(中学受験)するって言ってるから。受験したら将来役に立ちそうだし」と言うのです。

A夫さん夫妻が住んでいる地域は私立中学を受ける子どもが多く、妻はママ友たちから中学受験の話を聞いて、息子にも受験させたいと思うようになったということでした。

幸いA夫さんの家庭は金銭的に余裕があります。長男に勉強の素質があるなら伸ばしてあげたいと思い、A夫さんもOKを出しました。

長男は近隣で一番難しいと言われる塾の入塾テストに合格しました。ママ友たちからうらやましがられ、妻はうれしそうに塾の送り迎えを始めました。

■「ママが怖い」と泣く息子

長男は熱心に塾に通って、課題にもきちんと取り組んでいる……。A夫さんはそう思っていたのですが、塾通いが始まって1年ほどたったある日、妻はママ友と食事会に行き、珍しくA夫さんは長男と家で2人きりになりました。

その日は塾に行く日で、A夫さんが妻の代わりに長男を塾に送ることになっていましたが、長男は塾の支度をしながら泣き始めました。

A夫さんは、「どこか痛いの?」と慌てましたが、長男は「どこも痛くない」と言います。塾の時間は気になりましたが、長男の様子を見て、無理には行かせないことにしました。

泣く長男をなだめて話を聞くと、「ママが怖い」と言います。塾のテストでクラスが下がると、「なんで点数が取れなかったんだ」と怒るそうです。

これまでの塾の成績表を探して見てみると、確かに入った時よりも成績が下がってきていて、ここ最近は下位の成績が続いています。教育熱心ではなかった妻がそんなに厳しく言うようになっていたのかと驚きましたが、しばらく妻を観察してみることにしました。

■録音でわかった「怒鳴る妻と泣きじゃくる息子」

妻は普段は何食わぬ顔で長男と接しています。

A夫さんが長男の勉強のことを聞くと、「ちゃんと頑張ってるわよ」としか答えません。

自分の前では怒らないようなので、A夫さんは自分が不在の日に家に録音機を仕掛けてみることにしました。

すると録音されていたのは、ヒステリックに怒鳴る妻の声と大きな物音、それに「ごめんなさい」と泣きじゃくる長男の声でした。

長男から話を聞いていたとはいえ、普段の妻の態度からは想像できない怒鳴り声を聞いて、A夫さんは大きなショックを受けました。これはもはや虐待だと思ったA夫さんは、妻に「長男の塾をやめさせよう」と提案しました。

すると妻の表情が一気に変わりました。「せっかく入ったのにやめるなんてみっともない。周りから逃げたって笑われるじゃない」とまくし立てて、全く聞き入れようとしません。

結局、その日は妻を説得することはできませんでした。

向かい合って机につき、深刻な話し合いをしている男女
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■夫は息子を連れて別居

その後も長男の成績は上がらず、目に見えて元気がなくなっていき、「お腹が痛い」と言って、学校にも行きたがらない日が増えてきました。妻はA夫さんの前でも息子を怒るようになり、テストの結果が出るたびに、「○○くんは(塾の)上のクラスなのに」「こんな成績じゃ上位の○○中に行けない」と怒鳴りつけ、A夫さんがかばおうとすると「パパに似たのね」などと当て付けを言います。

妻が口にするのは最上位レベルの学校の名前ばかりで、長男の成績からするととても合格しそうにはありませんし、そもそも妻は、最初は具体的な志望校などなく、勉強する習慣は将来も役に立つから、私立中学に行かせようと言っていました。

A夫さんが受験の方針を話し合おうとしても「あなたには中学受験のことなんてわからない」と断られます。その間も長男への叱責は収まりません。

このままでは取り返しのつかないことになる、長男の心が壊れてしまう……。そう思ったA夫さんは、長男と話し合って、自分の実家に2人で帰りました。

そして私の事務所に相談にいらっしゃったのです。

■働き方を変え離婚に向け準備

A夫さんの当初の希望は離婚すること、そして親権を得ることでした。

親権を得るには、1人で子育てができる環境を整える必要があります。

今は実家にいて両親が手伝ってくれていますが、それは一時的なものなので、1人で子育てするには、働き方の見直しが必要だと伝えました。

するとA夫さんは離婚に向けて、長男のために、仕事の仕方を根本から変えました。会社経営のかたわら、なんとか時間をつくり、食事を作ってできるだけ長男と一緒に食卓を囲むようにしました。そのうち、息子の体調も回復してきて、A夫さんはほっとしていました。

■「中学受験“沼”にハマっただけなのではないか」

しかし私は、妻についての話を聞いていると、もともとの妻の性格の問題というよりも、中学受験をする親特有の“沼”にはまってしまっているだけなので、改善の余地はあるのではないかと思いました。

そこで、離婚に向けた相談には乗りながらも、生活が落ち着いたところで、A夫さんに「夫婦関係をどうしたいか」について考えてもらいました。

このころA夫さんも、私と同様、離婚で解決しようとすることに疑問を感じ始めていました。「塾通いを強制して怒鳴るのがよくないだけなので、それさえ直してもらえば、また一緒に暮らしたい」と言うのです。

そこで、しばらく別居を続けた後、改めて、A夫さんの代理人として、妻と協議をすることにしました。

■「とても後悔して反省している」

妻は話し合いのために事務所までやってきました。

夫が長男を連れて家を出てしまったことで、妻は落ち込んでいました。そして少しずつ気持ちを話してくれました。

ただ元気に育ってくれればよかったのに、塾に入ったことで欲が出てしまい、最後は塾のクラス分けの結果だけが気になってしまっていたこと。

学校や塾のママ友たちの手前もあり、成績が下がると自分が否定されたような気がして、つい長男をひどく叱ってしまったこと。

「とても後悔して反省している」と話して、妻は帰っていきました。

妻の話をA夫さんに伝えると、A夫さんは、長男の意見も聞いたうえで、今の塾をやめること、妻には勉強を応援してほしいけれど、関与はしないことに同意してもらえれば、家に帰ってもいいと言いました。妻はこれに同意したので、A夫さんと長男は家に帰りました。

A夫さんのサポートの下、長男は自分のレベルに合った塾に通い始めました。志望校は、妻が当初言っていたランクよりも下げたものの、モチベーションが上がったのか、熱心に勉強しています。妻も前のようにうるさく言うことはなくなり、長男はこつこつと勉強を続けた結果、志望校に合格することができました。

■夫婦仲が修復できることも

この事例のように、受験がきっかけとなって夫婦関係が悪化するケースは少なくありません。

「夫婦が不仲で……」という相談を詳しく聞いてみると、受験期の子どもがいて、その方針が合わないことが不仲の発端だったということもよくあります。

ただ、受験に熱を入れすぎたあまりに不仲になる場合は、いわば一時的に沼にはまっているような状態なので、そこから離れると冷静になって夫婦仲が修復できることがあります。

■軽い気持ちで始めたのに前のめりに

特に中学受験は、本人が強く希望していなくても、親の意思や周囲のママ友の影響などで受験を決める家庭も多いようです。

また、中学受験は、親がどれだけ付きっ切りになれるかが結果に関わる面もあるといわれているため、軽い気持ちで始めた受験勉強だったはずが、自分の受験以上に前のめりになって沼にはまってしまう人もいます。

しかし、子どものテストや受験の結果は決して親の思い通りにはなりません。

理想の中学に入れるために子どもに努力をさせているのに、理想通りの結果が出ない……。そんな時に、子どものせい、配偶者のせいにして、暴言や暴力に走ってしまう人がいるのです。家庭内にとどまらず、塾や学校にクレームを入れて、周囲と険悪になるケースもあります。

A夫さん夫妻は受験の前に問題を解決できましたが、対応が遅ければ、重大な影響を及ぼしてしまうこともあります。特に子どもの場合は、家庭内でのストレスが体調に顕著に影響します。

A夫さんの妻は、せっかく入った塾だからと、そこに通わせることばかりに固執していましたが、別居によって一度その気持ちをリセットしたことで、子どもへの態度を反省することができました。

両親の不仲で一番影響を受けるのは子ども自身です。子どもの人生のために前のめりになった結果、子どもの人生に悪影響を与えてしまう……。「受験沼」にはまりすぎてそんな本末転倒な事態にならないよう、受験の方針は、子どもの意思を尊重して、夫婦で話し合って決めてほしいと思います。

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堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

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(弁護士 堀井 亜生)

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