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単身者の3割超は貯金ゼロ…新NISA登場でさらに深刻化する「投資できる人・できない人」の格差

プレジデントオンライン / 2024年3月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■2024年1月だけで64万口座も増えた

今年から始まった新しいNISA(少額投資非課税制度)が人気を集めている。日本経済新聞の集計によると、証券19社のNISA口座数は2024年1月の1カ月間で64万口座増え、1530万口座に達した。1月は、2023年10~12月の1カ月平均の増加数の2倍のペースで伸びたという。旧制度でNISA口座を開設すれば、1月から自動的に新NISA口座に切り替わるため、昨年後半の段階から駆け込み開設が増えていたので、その人気にさらに拍車がかかっている、ということだろう。

特徴は若年層の口座開設が多いこと。日本証券業協会がまとめた昨年9月時点の証券会社におけるNISA口座数1356万口座のうち、54%が40歳代以下の口座で、中でも少額を長期にわたって積み立てる旧「つみたてNISA」(新制度は「つみたて投資枠」)は623万口座中80%が40歳代以下になっている〔日本証券業協会「NISA口座開設・利用状況調査結果(2023年9月30日現在)について」〕。

■旧NISAとは比べられないほど進化した「新NISA」

日本政府は長年、「貯蓄から投資へ」と言い続けてきた。ところが家計の金融資産構成は今でも諸外国に比べて圧倒的に現預金が多い。日本銀行がまとめた2023年3月末時点の統計では、日本の家計の金融資産の54%が現預金で、株式は11%、投資信託は4%程度に過ぎない。米国の場合は現預金は13%に過ぎず、株式が40%、投資信託が12%と「投資」が半分を超える。日本の家計の金融資産は増え続けていて、昨年6月末時点で2115兆円に達するが、そのうち1117兆円が現預金ということになる。

この「貯蓄」中心が、新NISAをきっかけに、いよいよ本格的に「投資」に動き出したと見ていい。理由は旧NISAとは比べられないほど進化した新NISAの制度設計だ。専門家の間では「神進化」を遂げたとまで言われている。政府がようやく「本気」になったように見える。

制度がどう変わったか。旧制度では「つみたてNISA」と「一般NISA」のいずれかを選び、総投資枠は前者が800万円、後者が600万円だった、これが新NISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠(旧一般)」の併用が可能になり、総投資枠は一気に1800万円(うち成長投資枠は1200万円)に引き上げられた。年間の投資上限は旧制度の「つみたて」が40万円、「一般」が120万円だったものが、新制度では「つみたて」120万、「成長」240万円になった。

■日本はまだまだ世界に冠たる資産大国

さらに大きいのが非課税期間である。配当や売却益に課税されない期間は、旧制度の「つみたて」は20年、一般は5年に過ぎなかったが、新制度は期限が撤廃されて恒久化された。しかも、資金が必要になって売却した場合に、空いた投資枠を翌年また使えるようになるという仕組みになった。配当や売却益に対する分離課税の税率は20%だから、このメリットは大きい。政府からすれば相当な税収減になる可能性もあるが、「投資」に家計資産をシフトさせることを優先したということだろう。

背景には、前述のように家計には1117兆円もの資産がある。日本の経済力低下が言われているが、まだまだ世界に冠たる資産大国であることには違いがない。ところが、この家計資産が「現預金」に置かれていることで、低金利の中でほとんど収益を生んでいない。この金融資産が「稼ぐ」ようになれば、家計はより豊かになるというわけだ。また、日本の株式などにも資金が回れば、企業の成長を下支えすることにもなる。

■「日本に残された最後の切り札かもしれない」

岸田文雄内閣は、「資産所得倍増プラン」を打ち出したが、要は資産大国として持てる資産をフルに生かして収益を上げようという、いわば資産大国戦略に大きく舵を切ったのである。もちろん、そこには深刻な少子化で今後、公的年金制度が行き詰まってくることを見据え、自助努力で老後資金を確保してもらいたいという思惑も見え隠れするが、それはひとまず置いておこう。日本経済新聞編集委員でNISA制度に詳しい田村正之氏は、「個人金融資産の2115兆円は日本に残された最後の切り札かもしれない」と語る。現預金1117兆円のうち仮に10%の100兆円が株式市場に流入したとしても、株価には大きなインパクトを与えることは間違いない。

NISAの投資先で人気を集めているのが全世界株式インデックス型の投資信託や米国株のインデックス投信などだ。前出の田村編集委員によると、信託報酬の低いインデックス投信で1990年1月から月3万円を積み立て投資し続けた場合、2023年の配当込みの資産総額は6800万円になったと試算できるという。かつて老後に2000万円必要だというレポートが出て大騒ぎになったことがあったが、きちんと積み立てて、運用をしていれば、それをはるかに上回る資産形成が可能だということだ。全世界株のインデックスで、世界の成長と同程度のリターンが得られれば十分だということだ。

株価の電光掲示板
写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■バブルの反省が過剰な「投資忌避」を招いていた

日本の場合、過去四半世紀にわたって株価は低迷し、超低金利政策が取られ続けたため、資金を株式に投じることは、一種のバクチのように捉えられてきた。1980年代のバブル景気に乗って、誰しもが株を買った時代への反省が、過剰な「投資忌避」につながっていたのだろう。

ようやく、世代が変わって「投資」へのアレルギーが消えてきたということも、「貯蓄から投資へ」が動き出した背景にある。

日経平均株価は、ようやくバブル期の最高値3万8915円を抜き、4万円の大台に乗せた。上がり方が急ピッチだったことから「バブルだ」という声も聞かれるが、バブル当時のムードを知っている筆者らの世代からすれば、まったく当時の雰囲気とは違うと感じている。当時は、NTT株の放出が国民的な株式投資ブームに火をつけたが、株を買えば短期間に儲かるというマネーゲームの色彩が強かった。実際の売却益だけでなく、保有株の価値が上がることによるいわゆる「資産効果」もあって、華々しい過剰消費へと突き進んで行った。

東京市場/4万円を超えた日経平均株価
写真=時事通信フォト
史上初めて4万円を超えた日経平均株価を示すモニター=2024年3月4日午前、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

シーマ現象と呼ばれ、高級車が飛ぶように売れたことや、連日連夜、深夜まで繁華街が賑わったことが象徴的だった。企業も不動産投資などに大きく傾斜、地価高騰はまさにバブルを形成していった。

■「過剰に株価が買われている」水準ではない

今、そんな景気の過熱感はほぼない。株価や不動産価格は上昇しているものの、それが過剰消費につながっているわけではない。高級品ブームはあっても、それが国民全体に広がっているわけではない。株価水準を見ても当時の株価収益率(PER)は60倍に達していたが、現在は予想収益ベースで16倍。企業の利益からみると、過剰に株価が買われているという水準ではない。

新NISAの口座開設はまだ続いており、今後もNISAブームは続きそうだ。制度が恒久化されたことで、長期にわたって投資資金が市場に入ってくることは間違いない。現状では多くの資金が世界株に流れているが、もちろん、世界の投資家の注目が日本市場に集まれば、世界株インデックスの中の日本株のウェートが高まっていく可能性はある。つまり、投資に回った資金のすべてが日本株に投資されなくても、日本株には追い風になるだろう。

もちろん、今の「貯蓄から投資」の風潮にも問題がないわけではない。むしろ深刻な課題が潜んでいる。格差の拡大だ。

■投資できる人とできない人の格差が拡大する

若年層でも毎月一定額を投資に回せる人は決して多くない。給与水準が低すぎるのだ。20歳代の4割近くが貯金ゼロと見られている。全世代では単身者の33%、2人以上世帯の22%が貯蓄がないという調査もある。つまり、投資に回したくてもそんな余裕はない、という人たちが国民のかなりの割合を占めているのだ。

仮にそれ以外の人たちが毎月3万円の投資を行い、30年後に数千万円の金融資産を保有しているとして、まったく資産を持てずにいる人との格差は壊滅的に大きい。今後、進むと想定されるインフレ経済では、低収入の人たちの生活費の負担が大きくなる。ますます投資どころか貯蓄もできない、という人が増えかねないのだ。

結局、ここでも、岸田首相が言い続けている「物価上昇(インフレ)を上回る賃上げ」が実現するかどうかが大きな焦点になる。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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