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「もうやってます、ネット系で」店頭で勧誘するもスルー…今さらNISAキャンペーンをする地銀のつらい現状

プレジデントオンライン / 2024年3月28日 8時15分

4万円台を回復して終えた日経平均株価を示すモニター=2024年3月19日午後、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

新NISAの口座開設数ではネット証券が躍進している。その他の金融機関ではどうなっているのか。金融アナリストの高橋克英さんは「メガバンク、地銀、信用金庫、大手証券会社では厭戦ムードが漂っている。それでも金融当局の手前や競合他行もあるため、早々と旗を降ろすわけにいかないのが現状だ」という――。

■日経平均4万円越えで急速に高まる関心

年初から上昇を続ける日経平均株価が4万円を超え、史上最高値を更新するなど、株式市場が活況だ。「実際に株で儲かっている」「スマホアプリ上の含み益がどんどん増えている」といった成功体験が広がるなか、人生100年時代、物価高に公的年金の事実上の崩壊もあり、老若男女問わず、NISAをはじめ、個人の資産運用への関心が急速に高まっている。

実際、「官民一体となって個人の証券投資を盛り上げていきましょう」との岸田首相の掛け声や金融庁の音頭もあり、NISA特集の雑誌や書籍が次々と刊行され、ネット上でも新しいNISAの解説やどの金融機関でNISA口座を開設すべきか、といった記事やコメントで溢れかえっているのは周知の通りだ。

NISAとは、日本国内での株式や投資信託などの投資における売却益と配当への税率を非課税とする制度である。

NISAは2014年に開始以降、制度が頻繁に変わったことで、制度がごちゃごちゃしていて利用者からも不評だった。このため、一般NISAとつみたてNISAを一本化、非課税期間を無制限にし、年間投資上限額を最大360万円に引き上げ、生涯に亘る非課税限度額も1800万円に増やしたのが、2024年1月からの「新NISA」だ。政府は今後5年間でNISA口座数を3400万、投資額を56兆円にまでそれぞれ倍増させる目標を示している。

■ネット証券2社でシェア7割超え

NISA口座は、証券会社だけでなく、銀行、信用金庫、郵便局(ゆうちょ銀行)などの金融機関で開設できる。しかし、取扱商品や手数料などが各社によって異なり、例えば、NISA口座の投資商品のうち個別の株式やETF(上場投資信託)は、銀行や郵便局では取引できない。このため、NISA口座の多くは証券会社で開設されることが多い。特に、取扱商品が圧倒的に多く、販売手数料なしの商品などが充実しているSBI証券や楽天証券などネット証券が人気だ。

金融庁によるとNISA(一般・つみたて)口座数は2136万口座に達しており(2023年12月末)、単純計算ながら、国民全体の17.2%がNISA口座を保有していることになり、まだまだ拡大余地もありそうだ。

なお、日本証券業協会によると証券会社によるNISA口座数は1356万口座(2023年9月末)に上り、証券会社によるNISA口座が、前出のNISA口座数全体の63.5%を占めていることになる。

この証券会社のNISA口座数1356万口座のうち、トップの楽天証券が515万口座(2023年12月末)、SBI証券では437万口座(2023年12月末)を占め、2社合計のシェアは、70.2%と圧倒的な存在感を示しているのだ。

■「楽天エコシステム」を持つ楽天証券

トップの楽天証券のNISA口座数は、足元では524万口座に達しており、NISA口座稼働率も66.8%と高い(2024年1月末)。新規口座開設者の半数を30代以下と女性が占めているのも特徴であり、NISA口座全体だけでなく、つみたてNISAともにシェアナンバー1だ。

楽天の躍進の原動力となっているのが、楽天経済圏の存在である。電子マネー、ポイント、クレジットカード、銀行連携が一体となった「楽天エコシステム」により、便利で魅力ある顧客サービスが実現している。投信積立、つみたてNISA、iDeCoが、相互にリンクしながら資産形成サービスが形成されており、ポイント投資、クレジットカード決済など、楽天グループの連携により顧客の囲い込みも進化している。

また、みずほ証券との資本業務提携により、みずほ顧客の楽天証券への顧客誘導もこの先進むとみられる。

おもちゃのショッピングカートに積まれたPの文字が書かれた木製ブロック
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

■売買手数料無料化で追い上げるSBI証券

SBI証券も負けてはいない。NISA口座数は438万口座(2023年12月末)でシェアナンバー2だ。日本株の売買手数料無料化に加え、新NISAにおける米国個別株(ADR含む)や海外ETF(米国・中国・韓国・シンガポール)の売買手数料も無料化に踏み切っており、足元でも、NISA口座の新規開設件数や他社からのNISA口座金融機関変更件数は増加基調にあるという。SBI新生銀行も加わったSBIグループによる「地銀連合構想」における金融商品販売の強化に加え、SBI証券と金融商品仲介で提携する地銀や信金を通じた全国規模のネットワークによる集客力は絶大だ。

ネット証券2強であるSBI証券と楽天証券が、NISAを含む口座数や預かり資産などで圧倒的なシェアを占めるなか、マネックス証券は、2023年10月、NTTドコモとマネックスグループ、マネックス証券が資本業務提携を締結した。2024年1月には、NTTドコモがマネックス証券を子会社化している。マネックス証券は、株式手数料ゼロ化を実施せず、NTTドコモと組むことで、NISA口座の獲得やポイント経済圏の拡大などを目指している。

■メガバンク、地銀、信用金庫、大手証券会社の厭戦ムード

こうしたネット証券の躍進を横目に、新NISA開始でビジネスチャンスのはずが、はやくも厭戦(えんせん)ムードが漂うのは、メガバンクや地方銀行に信用金庫、大手証券会社といった対面ビジネスに強みを持つ既存の金融機関だ。

NISAに限らず、投信や個別株など金融商品販売では、ネット証券がその利便性や手数料の安さなどから、デジタルネイティブ世代だけでなく、30代から50代のミドル世代、そして今やシニア層に至るまで幅広い層で利用されるようになっている。店舗ネットワークと営業員を活用し、対面にて金融商品を販売してきた既存の金融機関には逆風が続いているのだ。

口座管理システムなどシステム構築と運営コストも負担となり、投信など金融商品販売の純利益がマイナスの金融機関も多々あるとみられる。

通帳と積み重ねたコイン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■リスクの高い仕組債や外貨建て保険に注力

「なぜ、わざわざメガバンクや大手証券会社でNISA口座開設や投資信託を買わなくてはいけないのか?」「SBI証券や楽天証券のほうが、早くて安くて便利で商品ラインナップも豊富ではないのか?」という利用者の素朴な疑問もある。

メガバンクや大手証券会社、地銀の証券子会社を利用しても、手数料は割高で、ネット証券のようなポイントが加算されるわけでもない。ネット証券とは違い、対面サービスに強みがあるというが、FA(資産運用アドバイザー)には当たりはずれもあり、助言や投資情報はありきたりで、商品説明や手続きも長かったりする。

大多数の既存の金融機関は、NISAの取扱いをはじめ個人向け金融商品販売においても、蚊帳の外となりつつあるのだ。

「資産所得倍増プラン」を掲げ、NISAの拡充を通じて、公的年金の代替として国民の資産形成を促したい金融庁などにとっても、「NISAは儲からない」「面倒くさい」と不平不満ばかりで消極的な一方、リスクの高い仕組債に続き、足元では、外貨建て保険などの販売に注力しては、顧客トラブルを招く既存の証券会社や銀行への不信感は根強いだろう。

■本部の行員も動員して「NISAキャンペーン」をする地銀

こうした状況下にも関わらず、大手証券会社やメガバンクだけでなく、個人向け金融商品販売を強化する地銀や信金まで、いまさらながら「NISAキャンペーン」を実施中だ。NISAに関わるTVCM放映や、NISA資産運用セミナーの開催、キャッシュバックや優遇金利の提供とあの手この手で顧客の取込みを図っている。NISA口座の普及率は、まだ全人口比20%程度であり、この先も拡大余地があるのは確かだ。

とはいえ、ここまで説明してきたようなメリットもあり、既にネット証券が過半のシェアを占めるなか、計画通りにNISA口座を獲得するのは至難の業だ。

東日本のある大手地銀では、本部に務める行員も、応援部隊として郊外の営業店に派遣され、朝9時の開店から閉店時間までロビーや入り口前に立たされ、NISAのパンフレットとともに、来店顧客に声掛けするも大多数はそのままスルー。たまに立ち止まってくれても、「あ、もうやってます、ネット系で」とにべもない一言だったりする。

きっぱりと説明する男性
写真=iStock.com/b-bee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/b-bee

「そりゃそうだよな」と現場はあきらめムードながら、金融当局の手前や競合他行もあり、早々と旗を降ろすわけにもいかないのだ。

■割に合わず撤退するリスクもある

このように、①既にネット証券の独壇場であること、②システムコストなど費用増加、③追付かないFAの育成といった理由に加え、仕組債の販売などでトラブルが続いたこともあり、中小金融機関を中心に金融商品販売を縮小したり、事実上撤退する動きもある。

銀行や信金によるNISA取扱いも投信販売も義務ではないのだ。

城南信用金庫や中小の信金、地場の中小証券会社など、NISAを最初から扱っていない金融機関も実は多い。HP上に品揃えはあるが、人員の配置など積極的には行っておらず、事実上、開店休業状態の金融機関も散在する。

NISAだけでみると採算は厳しい。それはネット証券も同じだ。実際、つみたてNISA向けの投信は販売手数料がなく、信託報酬も低い。だからこそコスト削減と規模の経済を確保できるネット証券が優位に立てるのだが。

銀行や信金は、NISAの口座開設を機に、NISA枠以外の資産運用、住宅ローンなどを獲得することで、総合的な採算を確保していくことが必要となるが、競合他社もあり、簡単ではない。

NISAは、金融機関にとって小口でシステムコストもかかり、割に合わないビジネスであるのは確かだ。この先、一部の銀行や証券会社では、NISAのコストさえ賄えず、撤退リスクもある。

「リテールビジネスから撤退し、他の分野に経営資源を集約することも選択肢の一つ」(金融庁「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」2023年6月30日)と金融庁も撤退を促す始末だ。

銀行や信金の場合、個別株式の取扱いがない分、顧客の選択肢は限られることになる。この点に罪悪感をもつ銀行員もいる。デジタル化が進むなか、合従連衡や店舗統廃合で対面サービスが続く保証もない。だから「下手に勧誘もできない」と嘆く真面目な銀行員の声も聞こえてくる。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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