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「値上げ地獄」はまだまだ続く…日経平均「史上初の4万円超え」でも景気がちっとも良くならない本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年4月30日 9時15分

日経平均株価が4万円超えの高値をつけた電光掲示板を眺める男性=2024年4月4日、東京都内 - 写真=時事通信フォト

■中国株→日本株に振り向ける投資家が増加

4月中旬以降、世界的に株式市場が不安定化している。株式市場を取り囲む経済環境に変化が出ているためだ。

頭に入れておくべき主な変化の一つは、米国の金融市場の環境変化だ。年初、主要投資家はFRB(連邦準備制度理事会)が景気の減速や大統領選挙に配慮し、年内に7回程度の利下げを実施すると前のめり気味に考えた。

それに伴い金利は低下し、“マグニフィセント・セブン(GAFAMとテスラ、エヌビディア)”など、成長期待の高い銘柄の株価上昇の勢いは強まった。円安の加速、中国株からの資金振り向けなどもあり、日本株を買い上げる海外投資家は増えた。3月中旬、日経平均株価は史上初めて4万1000円台を上回る場面もあった。

しかし、ここへきて、想定以上に米国経済が強いことが明らかになった。主要投資家の予想する利下げ開始時期は後ずれした。年内の利下げ回数予想は1回程度だ。テスラやアップルの成長鈍化懸念も高まった。中東情勢の緊迫感も増した。

■世界的なインフレ懸念が再燃している

それに加えて、インフレの再燃で米金利が上昇する懸念もある。イランがホルムズ海峡の封鎖を警告して原油価格が上昇すると、インフレ懸念が高まるだけでなく、世界のサプライチェーンの機能低下も想定される。

世界経済全体に与える影響は重大だ。金価格の上昇などを見る限り、リスク回避に動く投資家は多い。当面、世界の株式市場から不安定要素を完全に払拭することはむずかしいだろう。

年初から3月まで、米国の株式市場では、一部のIT先端銘柄の株価上昇が鮮明化した。特に、AI関連銘柄の株価上昇の勢いは強まった。エヌビディアは82.5%、メタは37.2%上昇した。主要なIT先端銘柄が構成するナスダック100インデックスの上昇率は8%だった。

株価上昇を支えたのは、経済の成長期待と金利低下だった。2022年3月以降、3倍速(0.75ポイント)の利上げを含め、FRBは金融引き締めを強化し物価の沈静化に取り組んだ。

2023年10月、米国の長期金利は5%を上回った。金利上昇によって、米国などの物価上昇圧力は一時鈍化した。労働市場の引き締まり方もやや緩んだ。商業用不動産向けローンの焦げ付き懸念も高まった。

■カネ余りと円安進行で日本株が上昇

昨年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)でFRBは、2024年に3回程度の利下げの可能性を示した。FRBは景気の減速リスクなどに配慮し、機敏に利下げを実施する。主要投資家の楽観は急上昇した。

昨年2月の記者会見で、パウエル議長は“ディスインフレ”という言葉を何度も使った。FRBは利下げに転じるとの見方の投資家は急増した。その結果、米国の金利は低下した。

急激な金融引き締めにもかかわらず、2023年以降、米国の株価は上昇を続けた。コロナ禍対策や半導体工場建設支援などの財政支出増加により、米国の金融市場にカネ余り状況が続いた。昨年12月以降の金利低下で、米金融市場で資金の余剰感は高まった。

高い利得を求める投資家は、成長期待の高いAI関連銘柄などに資金を再配分した。3月最終営業日、米ニューヨーク工業株30種平均株価は、3万9807.37ドルの史上最高値をつけた。

「買うから上がる、上がるから買う」との強気心理の上昇、円安の進行によって、海外投資家は日本株も買い上げた。景気低迷懸念の高まる中国株を売り、わが国やインドの株式に資金を投じる投資家も増えた。新NISAの開始も円安、日本株の上昇をサポートした。3月22日、日経平均株価は4万0888円43銭まで上昇した。

■米国では利下げ期待が低下している

4月、状況は変化した。3月の米非農業部門の雇用者数は予想を上回った。米国の労働市場は依然としてタイト気味であり、賃金は高止まりした。その後に発表された、米国の消費者物価指数、小売売上高も予想を上回った。

実質賃金が上昇する中、米国内の企業は価格転嫁を進めやすい。賃金上昇は家賃などのサービス価格も押し上げた。OPECプラスの一部加盟国の減産延長などもあり、原油価格は上昇し米国のガソリン価格も上昇傾向を辿った。

FRBが想定した以上に物価上昇圧力は根強い。4月中旬、FRB関係者の中から、利下げのペースは当初の予想より緩やかになるとの見方が出始めた。利下げ開始時期の後ずれ、あるいは、年内の利下げ回数の減少の可能性が示された。米金利の上昇圧力は強まった。

金利が上昇すると、企業の予想キャッシュフローの現在価値は小さくなる。株式市場全体で割安感が薄らいだこともあり、金利上昇にともない株価調整圧力は高まった。アップルやテスラの業績懸念もあり、4月中旬の米国株式市場の不安定感は高まった。

■緊迫する中東情勢がインフレ懸念を押し上げる

インフレ懸念を押し上げる変化も起きた。イスラエルとイランの間で報復攻撃が起き、中東情勢の緊迫感は一段と高まった。米国の度重なる自制の要請にもかかわらず、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランやハマスなどに対する強硬姿勢を変えていない。ネタニヤフ首相が政権を維持するためにも、強攻策をとらざるを得ないとの懸念は多い。

今後、どこまで中東情勢の緊迫感が高まるか予測は難しい。世界経済の先行き見通しは悪化し、主要投資家はリスクを取りづらくなった。中東情勢の緊迫化は世界のインフレ懸念も押し上げる。

イランがホルムズ海峡の封鎖をより強く警告すれば、ペルシャ湾の船舶航行は減少するだろう。ホルムズ海峡経由で供給される原油は、世界全体の2割を占めるといわれる。また、世界第3位の天然ガス埋蔵量を誇るカタールから、欧州やわが国などへのガス供給が減少する恐れもある。それは世界経済にとって重大なマイナス要因だ。

写真=iStock.com/SzymonBartosz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SzymonBartosz

■経済状況は米中で明暗分かれる

米国の賃金の高止まり、人手不足および個人消費の増加傾向はしばらく続きそうだ。中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇、米国のインフレ懸念の再燃も考えられる。FRBによる追加利上げの必要性に言及する経済の専門家もいる。FRBは金融引き締めを継続し、物価安定の実現を優先する可能性は高い。

そうした状況になると、世界経済の不安定感は高まる。足元の世界経済は、米国経済、特に個人消費に支えられてきた。一方、中国経済はかなり厳しい。不動産市況の悪化に歯止めがかからない。個人消費は鈍化し、東アジア新興国の対中輸出の回復も鈍い。

また、中国は需要のサポートではなく、供給能力の強化を優先して経済政策を強化した。EV、風力発電機器など安価な中国製品の流出は加速した。米欧が対中制裁関税を発動し、通商摩擦が激化する恐れもある。それは、世界の供給網(サプライチェーン)の不安定化につながり、コストプッシュ圧力増大につながる恐れもある。

■日本でもさらなる物価上昇の恐れ

その中で米金利が上昇すると、外国為替市場ではドル一強状況が一段と鮮明化するだろう。円安の加速、原油などの上昇でわが国の輸入物価上昇懸念が高まった。世界的にインフレ懸念が再燃するリスクは高まる。米ドルの上昇は、米国企業の海外収益を目減りさせ、業績下振れ要因にもなることも考えられる。世界経済が圧迫される懸念は高まる。

今後、イスラエルとイランの関係が一段と緊迫化しホルムズ海峡の封鎖懸念が高まると、世界経済はかなり厳しい状況に直面するだろう。金利上昇で米国の個人消費に息切れ感が出始めて、景気の減速懸念が高まる可能性もある。それは、世界経済全体の成長率下振れにつながるだろう。

原油や天然ガス、食料などの価格が上昇すると、景気の下振れ懸念が高まる中で物価が上昇しやすくなる。通常では考えづらい経済環境が起きるかもしれない。主要投資家は今後もリスク回避的な行動を優先するだろう。それに伴い、世界的に株価の不安定感は高まりそうだ。そのリスクは頭に入れておいたほうがよいだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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