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「工程見直しや調達先変更…」円安が中小企業を直撃、工夫も限界に

産経ニュース / 2024年5月4日 18時27分

政府・日本銀行による「為替介入」の観測が広がり、外国為替市場の対ドルの円相場が乱高下している。しかし、円安・ドル高の基調に変わりはない。海外での稼ぎが多い企業や、インバウンド(訪日客)の誘客にとって円安は追い風となる一方で、原材料やエネルギーで輸入依存度の高い中小企業の経営を直撃する。中小企業は製造工程の見直しや調達先の変更などの工夫で乗り切る構えだが対策にも限界がある。コスト増分の価格転嫁も進んでいない。

「原材料の大幅な値上げが年間に幾度もあり、製造業は苦しめられている」。素材メーカーの山本化学工業(大阪市)の山本富造社長は円安進行による窮状を語った。

外国為替市場では、日米の金融政策の違いを主因とする円安ドル高が続いている。円安になれば商社や自動車などの大企業は海外事業の円建て収益の増加などで恩恵を受ける。一方、原材料などの輸入物価が上昇するため、小売りなど内需中心の中小企業はコスト負担が増加することになる。

円安の影響に関して、日本商工会議所の小林健会頭も4月17日の記者会見で「大企業と中小企業で正反対。大企業は海外資産があって、(海外収益を見込める)輸出もできる。中小企業は輸出比率が小さいし原材料高をもろにかぶる」と発言。中小企業は円安による負の影響が大きいとの見方を示した。

中小企業が円安を克服するにはコスト上昇分の価格転嫁がカギを握るが、東京商工リサーチが近畿2府4県で2月に行った調査では、企業規模を問わず「価格転嫁が全くできていない」としたのは276社中92社(33・3%)。コスト上昇分の半額以下の転嫁率にとどまったのは192社(69・5%)に上った。

では、中小企業が取れる対策はないのか。パナソニックホールディングス副社長で関西経済同友会代表幹事の宮部義幸氏は4月30日の会見で「取引先が海外なら、そこに対して競争力のあるビジネスはできないか。材料費や人件費の上昇分を転嫁し、高付加価値のものを提供することに尽きる」と話した。

大企業の中には供給網を見直し、国内回帰を進めるなど円安対策を講じるケースもある。大阪府内の食品製造メーカーの中小も「輸入原料の調達先の変更や国産品の割合を高めることも検討する」とするが、国産品も高価格で現実味が薄い。また、卸業の担当者は価格競争があるため値上げは困難だとし、「対策を取ろうにも、為替はコントロールできない」とあきらめ顔だった。

工業用ミシン部品を手掛ける広瀬製作所(大阪市)の広瀬恭子社長は「人手不足などもあり、日本に簡単に〝引っ越し〟はできない」と述べ、中小企業は生産拠点を日本に移すことも容易ではないことを指摘する。多くの中小企業にとって円安対応のハードルは高いといわざるを得ず、先行きの不透明さが増している。

「円安は持続と予想 克服へ価格転嫁が課題」アジア太平洋研究所・稲田義久・研究統括

関西企業は、特に非製造業では全国との比較で輸出比率がかなり低く、国内需要に大きく依存している。このため、収益に対する円安のマイナスの影響(コスト増)を全国より強く受ける。円安を乗り越えるには、生産性の向上と、コスト増分の価格への転嫁実現が重要な課題となる。

為替レートは今年後半に向かって円安が持続すると予想する。日銀は3月にマイナス金利政策を解除し17年ぶりの利上げに踏み切ったが、4月の金融政策決定会合では、物価や賃上げの動向をさらに見極める必要があるとして現状維持を決定。円を売って高金利のドルを買う取引が加速した。

今年の春闘は中小企業も歴史的な賃上げとなった。統計に反映される夏場にかけての毎月勤労統計や、6月に実施予定の所得税と住民税の定額減税の効果も注目される。

日銀はこれらの政策効果を見極めて金利政策の変更に向かうだろう。令和6年4-6月期の国内総生産(GDP)速報値は8月に発表されるため、日銀の政策変更は早くても9月の会合以降となりそうだ。(聞き手 井上浩平)

「伝家の宝刀」為替介入も効果は見通せず

政府・日本銀行が行き過ぎた円安を是正するために取る措置が「伝家の宝刀」ともいわれる為替介入だ。令和4年秋には総額約9・2兆円の円買い介入を実施。介入後、円高・ドル安基調に転換したが、介入の効果だったのかどうかについては評価が割れている。

円相場は4月29日に34年ぶりの円安ドル高水準となる一時1ドル=160円台前半を付けた後に円高が急速に進み、政府・日銀が円買い介入を実施したとの見方が浮上した。5月2日早朝にも介入に動いたとの見方が広がっている。

今回、当局は介入の有無を明言してない「覆面介入」の形をとった。正式な介入の実績は5月末に財務省が示すデータで明らかになる。

一方、4年9~10月の円買い介入後の円相場の動きをみると、同11月中旬から円高基調に転換した。ただ、その要因については、3回にわたる介入が円安トレンドを転換させたとみる向きがある一方、日米金融政策の影響や市場の観測の変化によるものだとの見解もある。

過度の円安は、企業や国民生活に悪影響を与える。政府・日銀は円安を牽制(けんせい)する「口先介入」を繰り返してきたが、為替介入は最終手段だ。

だが、介入のタイミングを狙った投機的な動きなどもあり、当局は介入を繰り返すことになるとの見方は根強い。円安の根本的な原因は日米の金融政策の相違にあるとされ、介入による効果は限定的との指摘もある。(井上浩平)

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