なぜ東大生は不幸になるのか? 大手企業に入っても数か月で退職、うつ病で休職…エリートが社会人になった途端にダメになってしまう「3つの理由」
集英社オンライン / 2024年3月29日 11時0分
〈高学歴の新入社員ほど“繊細”なのはなぜか? 「怒られ慣れていないので自分の過失を認めなかったり、逆に攻撃的になったりする」〉から続く
東大出身者にかぎって、一流企業に就職してもなじめずに早期退職したり、うつ病で休職するなど、卒業後に幸福度が大きく下がる傾向があるという。それはいったいなぜか。上司は彼らとどのように接すればいいのか。高学歴人材の正しい使い方を解説した、西岡壱誠著『高学歴のトリセツ 褒め方・伸ばし方・正しい使い方』より一部抜粋、再構成してお届けする。
なぜ「東大生は不幸になる」のか?
突然ですがみなさんは、「東大生は不幸になる」という言説を知っていますか?
2024年1月29日にネット番組「Abema Prime」でも特集として取り上げられた話題なのですが、東大に合格している人というのは、卒業後に幸福度が大きく下がる傾向があるという話です。
例えば大手商社や官僚として活躍するようになった東大の卒業生が、なぜか卒業した後で、幸福度がぐっと下がってしまうことがあるのです。また、せっかく入ったにもかかわらず、数ヶ月でその企業を辞めてしまったり、うつ病になって休職するようになったりする人が多いのです。僕自身、東大生の友達でうつになった人を複数見てきました。
頑張って勉強してきた結果、一流企業に入ることができて、本人も優秀なはずなのに、なぜそんなことが起こってしまうのでしょう?
それにはいくつかの理由が考えられます。
まず1つの理由は、「高学歴の繊細さ」にあると思います。今までの人生で大きな失敗をしてきたことがないので、精神的に少し脆いところがあるのです。彼らは一度の失敗を大きく捉えすぎてしまって、その失敗を受け入れられないことが少なくありません。それが東大生の幸福度が低い原因の1つだと思います。
また別の理由として考えられるのは、「高学歴なんだからこれくらいできるだろう」という外からのプレッシャーです。「東大生のくせにこんなこともできないのか」というような圧力をかけられて苦しんでいる人は多いですよね。ちょっと失敗しただけでも揚げ足を取るように指摘され、怒られる、と。
テレビのクイズ番組でも、東大生が間違える瞬間が一番盛り上がります。高学歴だというだけで、周りからの期待値が特別に高くなってしまい、その結果、少しの失敗でも周囲にがっかりされ、本人が不幸になってしまうということもあるのでしょう。
ちょっと脱線しますが、「東大生になると、親戚が増える」という話を知っていますか?
東大に合格すると、今まで全然会ったことのないような遠い親戚が、「自分は親戚です」と言って会いにくることがあります。これは、芸能人とかスポーツ選手だとかなりポピュラーな話だそうですが、東大生にも同じことが起こります。
それくらい、高学歴というのは世間からの注目が集まる生き物であり、だからこそ外からの視線を気にして生きる人も多いわけです。
「自由に、と言われても……」
加えて、さらなる理由は、「自分でやりたいようにやらない」です。「やれない」ではなく、「やらない」なのがポイントです。高学歴は、自分の意思や自分のやりたいことよりも、周りが求めることをしたいと考えてしまう傾向があるのです。
例えば、僕はよく東大生たちからこんなことを言われます。
「西岡さん、自分は何をすればいいですか?」
「どんな仕事をすればいいですか?」
と。まあ普通の言葉だと思うのですが、しかしこの言葉をかなりの場面で、それこそ「自分で判断してほしいとき」にも、使ってきます。
Aくん 「西岡さん。7日に取引先に提出する予定のファイルなんですが、西岡さんもチェックしてください」
僕 「え、あのプロジェクトは君に任せているから、別に僕のチェックは挟まなくていいよ。でも、聞きたいことがあるなら今聞くよ」
Aくん 「いえ、聞きたいこととかはないのですが」
このように、上司の立場からすると「自由にやっていいよ」「そっちの方が楽しいと思うよ」という意図で投げた仕事に対して、高学歴が「自由に、と言われても……」と細かい指示を求めてくる、そんな場面は多々あります。これも「高学歴はずっと優等生だったので、怒られるのが怖い」という議論に通じます。
もちろん一定レベルでのディレクションは上司がやる必要があるものですが、しかし度を超えて上司に相談し、自分で判断しようとしないことがあるのです。そうなると、「言われた仕事」をずっとやることになります。
多くの人が「仕事が楽しい」と思える瞬間って、「仕事における裁量が与えられて、自分で自由に仕事を動かすことができるとき」だと思います。人から与えられてそれを全うするだけだと、タスクを処理するような感覚になってしまい、短期的には楽しいかもしれませんが、でもずっと続けていたら退屈ですよね。
にもかかわらず、その「仕事が楽しい」と思える瞬間を放棄して、上の人に意見を求める高学歴が実はたくさんいるのです。
なお、この特徴は「プレイヤーとしてはとても優秀なのに、マネージャーとしての能力がなかなか育たない」ということを意味します。言われた通りに手を動かすばかりで、自分から「もっとこうした方がいいんじゃないか」ということを考え、人を動かしたりすることがない、ということです。
優秀な人材をプレイヤーからマネージャーにする言葉
高学歴が会社に入ってから悩みがちなことに、マネジメントの能力がなかなか育たない、という問題があります。
彼らはプレイヤーとしての能力は高くても、マネジメントして人を動かすというのは苦手で、逆に「自分でやった方が早いから」という理由で人に仕事を振ることができず、どんどん自分が仕事を抱えすぎてしまうのです。
こんな場面、みなさんも見覚えがあるのではないでしょうか。
僕 「さすがに仕事抱えすぎじゃない? ちゃんと助けるから、業務の分担もしようよ」
Bさん 「いえ、この仕事は自分にしかできないことなので。自分がやります」
こんな風に、自分で全ての仕事を全うしなければならないと考えてしまって、こちらに仕事を投げてくれないことも多いです。
要するに、
1 裁量を与えても、自由に自分で物事を判断しようとしない
2 だからこそ、プレイヤーとしてばかり仕事をしてしまい、マネージャーとしてのスキルが育たない
3 その結果、自分で仕事を抱えすぎてしまって、人に仕事が振れずにパンクしてしまう
ということですね。こうなると確かに、仕事を抱えすぎて不幸になってしまったり、失敗してしまったりするのも納得できます。
その上、マネージャースキルは会社組織の「上」の人たち、つまりは経営的な視点を持つことを求められる立場の人に求められるものですから、思うように出世できなくなって悩んでしまうということにもつながります。
頭がいい人は本来「自分の頭で考える能力」が高いはずであり、マネージャーとしての適性はあるはずです。むしろ、高学歴のエリートに求められるのはマネージャー・経営視点を持つことだと思います。それなのに、自由に発想したり、「こんなことをやってみよう」と考えたり、人を動かしたりするのが苦手……。
なんだか矛盾しているように感じるかもしれませんが、それは今までの話を振り返って考えていくとわかってきます。
まず、東大生は怒られるのが怖いのです。「失敗して、怒られたくない」と考えるあまり、自分で考えて判断することを嫌うわけですね。そして、記憶力がいいからこそ、一度失敗してしまうと、その失敗が残り続けてしまいます。
例えば一度自分で自由に考えて行動した結果、失敗してしまったならば、その経験の記憶がずっと頭に残り続けてしまうんですよね。
Cくん 「西岡さん、先方に送る企画書なんですけど」
僕 「え、Cくんもうベテランだから、勝手に送っていいよ?」
Cくん 「いやあ、前にミスっちゃったので、それ以降ずっと不安で……」
というトークはよくあります。失敗するのを怖がるあまり、自分で物事を判断したくない、と考えてしまうのです。
「高学歴の幸福論」とは
既にお話しした通り、高学歴には世間からの視線が集まります。そして、評価の基準が普通よりも厳しいです。なので「ここで失敗したら、『東大生のくせに』って言われるんだろうな」と考えた結果、リスクを取って挑戦することが難しくなってしまいます。
僕も、仕事を抱えがちな東大生に「なんでそんなに仕事を抱えるの? 他の人を頼りなよ」と言ったことがあるのですが、そのときこう返されました。
「いや、頼ってしまうのはなんだか申し訳ないし、自分一人ではできなかったって意味で失敗のように感じられて」
と。要するに、「失敗したくない、できない」という感覚が彼ら彼女らの成長を阻害しているのです。
では、そんな中で、どんなふうに高学歴と接すればいいのか?
これはとても簡単な話です。まずはこの「高学歴の幸福論」を理解してあげましょう。気軽に「高学歴なのにこんなこともできないのか」などと言わないこと。初歩的なミスをしたとしても、高学歴という色眼鏡では評価しないこと。これが一番重要なことです。
その上でもう1つ重要なのは、「失敗したときでも、相手を評価すること」だと思います。人間誰しも、初めて水に入る時は怖いと感じるものです。海水を飲んでしまったり、溺れかけてしまったりもするでしょう。でも、そういう経験も乗り越えた上で、徐々に泳げるようになっていくものです。
「失敗しても大丈夫」
これをきちんと伝えてあげることが重要です。
失敗したことを笑わず、むしろ果敢に挑戦したことを肯定する。そういう上司の下であれば、徐々にですが、マネージャーとしてのスキルが身についていくのではないかと思います。
文/西岡壱誠
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