尾崎豊、最初で最後のテレビ出演が醸し出した「不似合いな場所で足掻いている」印象…デビュー前に『15の夜』試聴テープを聞いたプロデューサーが気づいた違和感
集英社オンライン / 2024年4月25日 11時0分
4月25日は伝説のミュージシャン尾崎豊の命日だ。1992年に26歳という若さで亡くなった若者たちのカリスマ的存在だった彼の誕生の瞬間と最初で最後のTV出演をした逸話を紹介する。〈サムネイル/2013年11月27日発売『ALL TIME BEST』(SonyMusic)のジャケット写真〉
『15の夜』をいち早くオンエアしたのは甲斐よしひろ
1983年にNHK-FMで夜10時から放送していた『サウンドストリート』は、月曜日:佐野元春、火曜日:坂本龍一、水曜日:甲斐よしひろ、木曜日:山下達郎、金曜日が渋谷陽一という、今から見れば豪華なDJが日替わりで音楽を紹介していた。
尾崎豊のデビュー曲『15の夜』がオンエアされたのは、シングル盤になることが決まって間もないころだったと思う。レコードが発売になったのは1983年の12月1日だが、オンエアはそれよりも前で、試聴用のカセットテープが音源だった。
突出した新しい才能に出会って、それを伝えたくていち早くオンエアしたのは、水曜日担当の甲斐よしひろである。その第一声は「今夜は、凄い新人を見つけました」というものだった。
僕は番組の収録現場だったNHK放送センターのスタジオで、担当ディレクターだった湊剛氏、DJの甲斐よしひろと一緒に、関係者が持ち込んだカセット・テープで初めて『15の夜』を聴いた。
3人とも一聴しただけで、「凄い新人」だと意見が一致した。
その時に知ったのはまだ17歳の高校生で、東京出身だということだけだ。どんな顔でどんなタイプの少年なのかも分からなかった。だが、新しい時代のヒーローになるかもしれないとの予感がした。
デビューから1年以上後、『卒業』のヒットでカリスマ的存在に
レコードの見本盤ができあがってくると、音楽関係者の中ではかなり評判になった。『サウンドストリート』では、佐野元春と甲斐よしひろ、渋谷陽一がそれぞれ自分の番組で紹介したと記憶している。
しかし、意外なことにレコード発売後、僕の予想に反して尾崎豊はすぐにブレイクしたわけではなかった。スターにまつり上げられたのはそれから1年以上が過ぎて、1985年にシングル『卒業』がヒットしてからである。
そこからは一気に世間の注目が集まり、たちまちカリスマ的な存在になった。抑えられていたエネルギーが爆発したように、若きロックスターが誕生したのだ。
だが、果たしてそれがよかったのかどうか、僕には今もってよく分からない。
あまりにも真っ正直な歌詞、絞り出されてくるような疼き、痛み、傷つき壊れやすい心が心配だった。人気商売という面が強く、ビジネス面が優先する日本の音楽業界の体質を考えると、少年のようにピュアなままやっていけるのかどうか不安を覚えた。
それから4年の月日が流れた1987年12月22日。尾崎豊は覚せい剤取締法違反で逮捕された。 懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けて、東京拘置所から釈放されたのは翌年の2月22日だった。
不似合いな場所で足掻いている、そんな違和感があった
3か月の拘置所生活の中で生み出された曲『太陽の破片』は、6月21日にシングル盤が発売された。東京拘置所で書かれたノートの最初にあった原詩をもとに、追い詰められた重圧と苦悩についての歌だ。
そんな尾崎豊が最初で最後のテレビ出演を行なったのは1988年6月22日のこと。
東京ドーム公演を間近に控えていたので、そのプロモーションを兼ねての出演だったに違いない。
フジテレビの音楽番組『夜のヒットスタジオDELUXE』は、エンターテインメントに徹している人気番組だった。復帰をアピールするには効果があるが、アーティストの尾崎豊にとって相応わしい場とは言い難い。
テレビ初出演の若きカリスマを迎えて、気持ちの高ぶりを隠せない司会者たちの紹介にも、どこか居心地の悪そうな尾崎豊は小声でこう語るだけだった。
「僕の素直な気持ちを曲にして、これからずっと歌っていきたいと思ってます」
自分自身の葛藤と向き合いながら孤独を歌っていた尾崎豊が、その夜は公衆の前に晒されているようにも見えた。不似合いな場所で足掻いている、そんな違和感が最初から最後まで漂っているように感じられた。
音楽の純潔性がそのまま出ているかのような、尾崎豊の精魂を込めた歌とパフォーマンスは、テレビ番組のエンターテイメント性とは対極にあった。テレビを見ている視聴者には、よくも悪くもそれがはっきりと伝わる夜となった。
しかし、アウェイともいえる場所でも、尾崎豊の歌声と咆哮には、時を超えて訴えかけてくるものがあった。今にして思えば、それは孤独な心が砕け散る予感を孕んだ、魂の叫びだったのかもしれない。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP
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