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小売業界新たなフェーズへ!平和堂の株価上昇が意味することとは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年5月8日 20時59分

春も進み、早くも3月期の決算シーズンが訪れました。前回はしまむらの株主総会における株主提案を取り上げました。5月17日に開催予定の総会のゆくえはやはり気になります。仮に株主提案が承認される場合、それは株主がストックされた現預金と毎年のフローで稼ぐ現金の使い道についてインフレのもとで鋭敏になったことの証左になります。仮に否認されても、こうした現金の持ち方は毎年株主に厳しく監視される、そのきっかけになるでしょう。今回は平和堂の株価上昇の理由とその影響について考えたいと思います。

4月、平和堂の株価が急上昇

 さて、4月の株価の推移も大変興味深い内容になりました。

  主要小売企業の2024年4月における月間株価騰落率上位10社は以下の通りです。

社名 月間騰落率 PBR(株価純資産倍率)
(株)ビッグカメラ 20% 1.88
(株)平和堂 19% 0.69
日本KFCホールディングス(株) 14% 4.06
(株)ケーズホールディングス 13% 0.96
(株)ノジマ 11% 1.10
(株)コメリ 10% 0.77
上新電機(株) 10% 0.67
(株)エービーシー・マート 9% 2.31
(株)マミーマート 9% 1.54
アークランズ(株) 8% 1.02

 +10%を超える上昇を示す企業が7社もあり、その顔ぶれも家電量販、総合小売、ホームセンターなどの業態に集中していることがわかります。また、株主にとって企業解散の目処となるPBR(株価純資産倍率)が1を下回っている銘柄が4社あることも注目点です。

  このなかで筆者が特に注目したのは平和堂の株価上昇です。

 同社は堅実な経営ながら資本効率が低く、PBRが1を大幅に下回っていました。ところが同社は4月4日の決算発表に合わせて「資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について」を発表し、これが株価の上昇をもたらしたと考えられます。

 その骨子は、「売上高当期純利益率を従来の1.4%〜2.4%の水準から3.2%まで引き上げ、この結果ROEを従来の3.7%〜6.1%の水準から2030年に8.0%を目指す」というものです。ハードルは低いとは思いませんが、意欲的な計画であることが高く評価されたのでしょう。

 

PBR銘柄の修正相場は終了へ

y-studio/istock
y-studio/istock

 平和堂の株価上昇を受けて筆者は、「低PBR銘柄の株価が資本効率を重視する経営姿勢の変化を受けて上昇し、低PBRが修正される」という相場がだいぶ終わりに近づいているのではないかと考えています。

 すこしデータを眺めてみましょう。

現在株式時価総額が300億円以上の小売企業143社のうち、

2023年3月末に

- PBRが1.0倍以下だった企業数はおよそ50社(全体の35%)
- PBRが0.9倍以下だった企業数はおよそ39社(全体の24%)

これが2024年4月末に

- PBRが1.0倍以下だった企業数は35社(全体の28%)
- PBRが0.9倍以下だった企業数は28社(全体の20%)

となっています。

 2023年3月末のPBRは筆者の概算ではありますが、全体の三分の一を占めていた低PBR銘柄が四分の一から五分の一まで減少しており、低PBRの修正は山場を超えたように思います。

  残る低PBR銘柄は一部の百貨店、一部の家電量販店、ホームセンター、一部の食品スーパー(SM)などに絞られてきました。これらの企業は個社の努力だけで資本効率を抜本的に改善することが難しそうに思われます。

 このような場合、従来の延長線上にはない抜本策が必要でしょう。筆者は遅かれ早かれそうした展開になると思っていますが、具体的な動きが一つ出てくるまでは、株価は動きにくいと思います。個社の自助努力で改善できる企業はおおよそ手を打ってきた、とまとめられそうです。

  言いかえれば、株式市場は低PBR改善ではない新たな切り口、ストーリーを探し始める時期になったということです。

 PBR修正後は業界の垣根を超えた新たな業態作りがテーマになる

  話は変わりますが、セブン&アイ・ホールディングスがイトーヨーカ堂・ヨークベニマルなどのスーパーストア事業を分離上場する動きが注目されています。

  この上場を成功させるとすれば、不採算店舗を削減し、筋肉質にする必要があることは論を待たないと思います。

  しかし、当事者であるセブン&アイがそれで必要十分だと考えているとは思えません。上場を目指す以上、説得力があり夢のあるエクイティ・ストーリーが必須です。例えばイオンを凌ぐ業態、セブン-イレブンをも脅かしかねない業態を目指すべきだと考えているのではないでしょうか。

  すなわち、総合スーパー(GMS)・SMにおける規模最大化、都心部で省人化を徹底した直営店舗運営、利益商材を抱えるドラッグストア業態の取り込みなど、幅広い選択肢を聖域なく検討しているに違いないと思います。

  平和堂が今回株価対策に正攻法で取り組む姿勢を示したことは、来たるべき地域や業態を超えた再編の可能性を視野に入れ始めたからではないか。つい、そのように考えたくなる今日この頃です。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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