「逃げないかん、と阿弥陀さんを乗せて高台へ避難」 京都・東本願寺の実務トップが経験した能登半島地震
まいどなニュース / 2024年3月20日 16時0分
「車に乗ってすぐ、ぐらっと大きな揺れが来ました」「阿弥陀さんを車に乗せて高台へ」-。全国約8500カ寺が所属する真宗大谷派(本山・東本願寺、京都市下京区)の事務方トップ・木越渉宗務総長(66)は、地元の石川県かほく市で、能登半島地震に遭遇した。日本有数の伝統仏教教団の幹部が見た災害の実像と宗教者が災害時にできることを聞いた。
石川県かほく市へ
木越宗務総長は石川県かほく市の光専寺の住職。当日、午前中に京都・東本願寺で元日の法要を終え、自坊のあるかほく市に戻った。そして午後4時10分のことだった。
「ちょっと買い物に行こうと坊守(妻)と車に乗りました。出発してすぐ大きな揺れが来ました。地震はカタカタ揺れるところから始まると思うんですが、横揺れが長い時間にわたり続きました」
寺があるのはかほく市高松地域。日本海に面したエリアだ。気象庁によると、同地域は震度5弱の揺れを観測していた。
大津波警報、逃げないかん
「高松は海岸まで歩いて5分くらいの海辺の町です。ですので在所の門徒(地域の信者)さんが『大津波警報が出ている。高台に逃げないかん』と言ってくださいました。坊守と本堂に行って阿弥陀さんを車に載せました」
逃げた先は高台にあるコンビニの駐車場だった。海の方角を眺めていると、海の様子がいつもとは異なることに気付いた。
「午後4時半くらいだったと思います。薄暗い中、1本の白い波がスーッと押し寄せるのが見えました。あれが津波かと近所の人たちと話していました」
金沢港で津波は0・9メートルを観測。幸い津波は避難した高台まではやってこなかった。しかし、津波警報が解除されたのは2日午前1時15分だった。
「9時間の車中避難です。車のテレビを見ながら能登半島の被害の様子を知りがくぜんとしました」
妹とは1週間連絡が取れず
能登半島北部の能登町には妹がいた。心配だったが電話が通じず連絡を取るすべはなかった。
「1週間たってから、ようやく向こうから連絡がありました。回線がつながる地域があって、そこへ行って電話をかけてくれたんですけど、第一声が『見舞いに来たいだろうけれども来んといてくれ。お兄ちゃんが来ない代わりに、1台でも多く支援物資を運ぶトラックを通してやってくれ』でした。行かない支援ということがあるんだなということを教わったんです」
大谷派には「都道府県」のような教区という区分けがある。「真宗王国」とも呼ばれ寺院・門徒数の多い石川県の能登地方だけで「能登教区」があり353カ寺が属する。大谷派は1月2日、金沢市に「現地災害救援本部」を立ち上げ、被災地や被災寺院の支援に乗り出した。2月1日には石川県七尾市の能登教務所に同本部を移転、宗派独自のボランティア支援センターを立ち上げている。
「悲しいことですけど、いろんな災害を経て、大谷派はノウハウを蓄積してきました。何が必要なのか声を聞き取って、宗派としてできることをしていっています。ただ、宗派ができることとできないことの線引きをきちんとしないといけません。できないのであれば、できるところに頼んでいくことも必要です。息の長い支援が必要になっています」
1月31日~2月2日、木越宗務総長は輪島市や七尾市、珠洲市など被害の大きかった地域を巡った。その際、住職が身を寄せる避難所も訪ねた。東本願寺のジャンパーを着た宗務総長や職員を見た地元住民の態度に「真宗王国・能登」の風土を感じたという。
「お坊さんが来たと分かり、皆さん法話を聞くような姿勢でした。隣近所で一緒に仏法を聞いてた仲間ですので、温かいコミュニティーを作っておられるなと感じました。要望があれば、避難所に法話をしに行く。そういう支援の仕方があるんじゃないかと思います。念仏するということも、日常を取り戻す取っかかりになるのかなと思っています」
心の復興は
物質的な復旧・復興は始まっているが、果たして被災者の「心の復興」は進んでいるのだろうか。
「地震は災難であるとともに、仏法が伝わらなくなる法難であるとも思っています。今まで集まることができたのが、集まれなくなっていく。僧伽(サンガ、仏教の共同体)が崩れていくということですので、宗教教団としてはその点を見ていかないといけないと考えています」
3月12日時点で、大谷派能登教区353カ寺のうち、321カ寺で何かしらの被害が報告されており、このうち本堂の大規模被害の報告は72カ寺に及ぶ。石川県珠洲市では住職が土砂崩れで犠牲となった。
「お寺と門徒というのは運命共同体です。お寺さえ再建できればいいというわけではありません。真宗大谷派の寺というよりも、お寺の原点である、みんなが集まる集会所としてのお寺を建てるんだという意識が起点にないと再建は難しいと思います」
能登半島では火葬場や2次避難場所の地理的事情などによって十分な葬儀が行えなかったケースもあるという。
葬儀の基本とは
「仏教で葬儀を出すことの基本は、亡くなった方が仏様になり、残された私に大事なことを教えてくださる、そういう存在になったんだということを自覚するための儀式です。残されたわれわれが合掌できる身となることを確かめる儀式なんです」
仏教、とりわけ真宗の教えは「悲しみを遠くに追いやったり、死を忘れさせたりするものではない」と説く。
「仏教は悲しみに深まりを与えてくれる。悲しみに意味を与えてくれるものです。やがては集まれる人に集まっていただいて、七尾市で追弔会をお務めできたらいいなと考えています。それが支援になるのかなと思います」
(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)
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