国境なき医師団で看護師として働く魅力とは? 5人の日本人看護師が語るリアル(後編)
国境なき医師団 / 2024年5月10日 16時15分
5月12日は「国際看護師の日」。近代看護の礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールの誕生日にちなんで制定された。国境なき医師団(MSF)では数多くの看護師が人道危機の現場で活動している。直面した困難や、仕事の魅力、そして求められる力とは──。日本から派遣された5人の看護師が伝える。
「医療のプロとしてチームで働く」
看護師 佐藤 太一郎
理不尽な暴力に直面する人びと
2020年からこれまでに、イラク、パレスチナ、イエメン、ハイチ、チャド、スーダンで活動し、紛争地で理不尽な暴力に傷つけられた人びとを目にしてきました。
直近では武力衝突が昨年4月に激化したスーダンと、その隣国のチャドで活動。チャドでは国境を越えてたどり着く人に医療を提供できるようテント病院を設営し、銃で撃たれた人を中心に1日100人を超える患者さんを受け入れました。 「苦しい境遇にある人たちの力になりたい」と各国から集まってくるスタッフと一緒に働くのはやりがいがあります。今回参加したスーダンのプロジェクトは、紛争前は10人を超える海外派遣スタッフが活動する大きなプロジェクトでしたが、今回はチーム全体で5人のみ。その中で医療者は2人でした。皆それぞれが自分のプロフェッショナリズムを持っています。僕は一人の看護師というより、一人の医療者、医療のプロとして活動しました。
求められる意外な力、「数字に基づくレポート力」
目の前で起こっていることはあくまでその日の状況で、現場には必ずそこに至るまでの過程があります。患者さんは、どんな状態で入院してきたのか、そこから今に至るまでの経過、昨日と比べて良くなっているのか、それとも悪くなっているのか。今だけでなく、時間経過と過程に着目し、その場だけの判断にならないように意識しています。 また、患者さんの今だけでなく、10年後、20年後の人生を考えた時にベストな対応とは何なのか──。日本の救命救急センター時代はあまり意識しなかった点でしたが、MSFで活動し資源や環境などさまざまな難しさがある中でより意識するようになりました。 もう一つ必要な意外な力は「レポート力」です。「ここにはたくさんの患者さんがいてすごく大変だ!」という主観的で抽象的な事象を、いかに客観的・具体的に伝えるか。そのためには、説得力のある数字を用意して説明する力が求められます。
欧州にある統括部門に現場から適切な情報を伝え、必要な人材、薬品や医療機器などの物資、そして予算を確保する。少ないリソースで多くの人を救うためには、客観的な情報が重要だと実感しました。
「MSFには看護師と医師の垣根がない」
看護師/医療コーディネーター 道津 美岐子
20年間続けてきた理由
私は今、医療チームのリーダーやコーディネーターとして、現場のプロジェクトで医師を含めた医療スタッフ全体を統括する役割を担っています。2004年からMSFに参加し、活動歴は20年になりました。 長年MSFで仕事を続けていられるのは、「医師が上、看護師はその下」という関係性がないことです。すべての医療スタッフがチームの一員として医師とも意見交換を行い、フィールドでの最終決定は医療チームの責任者である私が行います。
一つのゴールに向かって
20年前、2回目の派遣となったスーダンのダルフールで、国内避難民キャンプに1週間で診療所を建てるという任務に参加しました。ドイツ人の医師も私も頑固で、場所選びからレイアウトに至るまで毎日が言い合いに。 でも「命を守るというゴールが一緒なら、自分の意見を主張するだけでなく、誰のどんな方法でもいいんだ」と気づき、最終的に皆の満足がいく診療所を作り上げることができました。完成し、皆で「やったぞ!」と喜んだ瞬間は忘れられません。多国籍チームで一つのゴールに向かうことは、何事にも代えがたい充実感があるんです。
「人を看る」ことは世界共通
活動の持続性を考えると、現地のスタッフに知識、 技術を伝え、彼らが前面に立てるようにすることが重要です。私自身は活動を裏方から支える存在であるべきだと考えています。 自分が持っている価値観を押し付けず、相手のやり方も尊重しながら進めること。そのためにはフレキシブルな考え方と、「あ、それもありかな」と柔軟に適応する姿勢が必要です。 人種やジェンダー、宗教、文化に関わらず、「人を看る」ということは日本でもMSFの現場でも同じだと、常に思っています。
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