仏像界の大ボス・東大寺の大仏はなぜデカいのか? 再建につぐ再建、腰回りは鎌倉、顔とボディは江戸時代もの
集英社オンライン / 2024年3月17日 11時1分
年間1000体以上、これまでに10,000体以上を拝み倒した、「お寺・仏像研究家」の芸人みほとけさん。独自の目線で、仏像の魅力を語った書籍『みほとけの推しほとけ』が発売された。全国に散らばる国分寺、国分尼寺の総本山、東大寺にある大仏のエピソードを書籍より一部抜粋して紹介する。全宇宙を統括する毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)とは?
よく分からないけど
デカくてありがたい!
東大寺の大仏は仏像界の大ボスです。大きさもさることながら、聖武天皇が「この国の全ての人のために祈りたいのじゃ!」とオーダーした国家レベルの大事業仏像というバックグラウンドも重要です。
聖武天皇は日本中に国分寺・国分尼寺という全国を統治するための官立寺院を建立しました。東大寺はそれらの「親玉」。「全部ひっくるめて祈ってやるぜ!」という気概が、あの巨大な体に込められています。
東大寺大仏造立当時の740年代は疫病が広がり、中央では権力闘争、九州では反乱が起き、社会不安が高まった時でした。聖武天皇は待望の男子の後継となる息子にも早くに先立たれ、「ワシの国、かなりヤバくない!?」と、危機感はハンパなかったと思います。
そんな時に河内(大阪)の智識寺というお寺で〝毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)〟という仏様に出会います。この仏様は、全宇宙を統括する超巨大な存在です。
その教えによって仏教への理解をさらに深めた聖武天皇は、743年「この乱世を癒し、国民の幸せと国家の安泰を願うには毘盧遮那仏をみんなで協力して造立する他ない!」と大仏造立を始めたのです。
全国を行脚する僧侶行基が全国民から資金を集め、752年、東大寺大仏はなんとか完成しました。大仏造立の事業には全国民の半数以上が関わったといいます。これ以降、戦で燃やされたり、地震で壊れたりを繰り返しながらも、時の統治者と国民の勧進(仏様のためにお金を出すこと)で何度も立ち直ってきました。
宇宙を統括
聖武天皇の願いは叶ったのでしょう。東大寺の大仏を通じてこの国の人の平和を祈る心は、今日までも伝播し続けているように思います。近年の新型コロナウイルスの流行による混乱の際も、東大寺は日本中の宗派・宗教を超え、僧侶や神父とともに祈りを捧げると宣言しました。
聖武天皇は「ほら!大仏を造ってよかったでしょ!」なんて言っているかもしれません。だからこの国に生きる、私たちみんなの「大ボス」なんですね。
さて、ではなぜあんなに大きいのでしょうか。先ほどしれっと書きましたが、この宇宙を統括する超巨大な存在だからです。超巨大にして、〝宇宙を統括する〟というスゴすぎて分かりにくい働きを「考えるな、感じろ!」と示してくれているわけです。
期待通り、私はあの大きくて圧倒的な存在を前にしては息を吞み、「よく分からないけど、デカくてありがたい!」となります。現代は巨大建造物も珍しくないけれど、やはりこの国を1300年もの間背負ってきた〝デカさ〟にはひれ伏したくなる、ウチらのボスです。
ボス(もう敬意を込めてこう呼ばせていただきます)のポーズには、メッセージが込められています。右手のひらを前に向けて立てる「施無畏印」、左手のひらを上に向けて膝に乗せる「与願印」。右手で「怖くないですよ」、左手で「願いを叶えましょう」という意味を示します。
私流に解釈すると「恐れることはない、私があなたの全てを受け止めよう!どこからでもかかってきなさい!」となります。ボス〜!心強すぎます〜!
先にも書いた通り、大仏は何度も壊れたり再建されたりを繰り返したので、奈良時代の造立当時のものはお腹回りと、台座の蓮の花弁くらいしか残っていません。腰回りは鎌倉時代、ボディやお顔は江戸時代のものです。ここまで読んでいただいた方なら「なんだ、江戸時代かよ」とはならないですよね。
再建されていることが尊いと思うんです。やはり大ボスだからこそ、時代の動乱には巻き込まれるし、造り直すのも莫大な費用がかかります。それでもなお立ち直ってきていることを思うと、ありがたく感じますよね。
ただ、聖武天皇が今の姿を見たら、「だいぶ若返りましたなぁ!」なんて言うかもしれません。
イラスト/書籍『みほとけの推しほとけ』より
写真/shutterstock
みほとけの推しほとけ(笠間書院)
みほとけ
3月13日発売
1980円
240ページ
978-4305710086
読んだら、絶対会いに行きたくなる!
年間1000体以上、これまで10000体以上拝み倒した、「お寺・仏像研究家」の芸人みほとけが、独自の目線で、仏像の魅力を語ります!
日本各地で出会った仏像から、悩みに悩んで選び抜いたオススメの仏像48尊を、本人作のイラストとともに紹介。
仏像の特徴や造立の経緯から、お寺の歴史、仏師などゆかりの深い人物のエピソード、周辺地域の様子まで、率直すぎるリアクションを織り交ぜながらわかりやすく解説。それぞれの仏像の個性と楽しみ方がよくわかります。さらに知識が深まる「おまけメモ」付き。仏像のことを、きっと誰かに話したくなるはずです。
●どこをどう見たらいいか、わからない!
●何がすごいの?
●全部同じに見える……
●どんなご利益があるの?
●そもそも仏像って何?
「仏像を見るってちょっと難しい……」「仏教や仏像のことをよく知らない……」という人でも、知識ゼロから仏像がわかる・楽しめる、仏像超入門本です。
【目 次】
第1章 やっぱり最高!有名すぎるほとけ 誰もが認める国民的アイドル、仏像界のセンター 興福寺 阿修羅像など
第2章 癒しと色気の美ほとけ 僧侶人気ナンバーワン! 密教美の集大成 観心寺 如意輪観音など
第3章 ハートを射抜くイケメンほとけ 鋭さと切なさと心強さと 室生寺 釈迦如来坐像など
第4章 ビジュアルが強いほとけ でかい! こわい! でもやさしい 観世音寺 馬頭観音菩薩立像など
第5章 かわいい愛されほとけ まんまるまるく まるくまんまる 山梨県身延町 木喰仏など
第6章 アクロバティックなほとけ 阿弥陀様を讃えるエンターテイナー集団 平等院 雲中供養菩薩像など
第7章 大地が生んだほとけ 東北の大横綱 勝常寺 薬師如来坐像など
第8章 歴史ロマンあふれるほとけ 風が運ぶ慈悲 涙をためたうるうるアイズ 建長寺 地蔵菩薩坐像など
第9章 ご当地スターほとけ 東北の山に潜む〝完全体〟の奇跡 大徳寺 横山不動尊など
第10章 ほとけになった素敵な人 初恋にして最愛の「推し」 六波羅蜜寺 空也上人像など
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