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ツルハがイオン傘下へ「ドラッグ2兆円連合」の波紋 ファンドから全株取得、イオン急接近の背景

東洋経済オンライン / 2024年3月11日 7時20分

ツルハ、ウエルシアともにM&Aで全国区へと規模拡大を続けてきた(撮影:今井康一、編集部)

ついに北海道の雄がイオン傘下に入る――。

【画像】イオンとウエルシア、そしてツルハの3人の社長それぞれの思惑とは

イオン子会社でドラッグストア業界首位のウエルシアホールディングス(HD)は2月28日、北海道地盤で2位のツルハHDと経営統合の協議を開始すると発表した。実現すれば、売上高2兆円規模のドラッグ連合が誕生する。ツルハはイオンの子会社、ウエルシアはツルハの子会社となる見通しで、2027年末までの合意を目指す。

2番手のツルハが首位のウエルシアの親会社になるスキームだが、記者会見では「あくまで精神は平等。早期にシナジーを発揮するのが目的」と、ツルハの鶴羽順社長は説明した。人事権は親会社のツルハが持ち、買収後も互いの屋号(看板)を残す方針だ。

昨年12月に行った東洋経済のインタビューでウエルシアの松本忠久社長は、ドラッグストア業界の展望について「初代社長は規模拡大を優先してきたが、2代目は『どんな価値を提供する店を目指すか』を重視する傾向が強い。これがガッチリはまれば、大きな再編が起こるのではないか」と語っていた。

イオンがオアシスから株取得

経営統合に先立ちイオンは、アクティビスト(モノ言う株主)として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントからツルハ株約13.6%を1023億円で取得する予定。イオンの出資比率は約27.2%となり、ツルハはイオンの持ち分法適用会社となる。

オアシスは、ツルハの持ち分比率を12・8%まで高めたうえで、昨年8月のツルハ株主総会で株主提案を行っていた。創業家が会長と社長に就き、父親が息子を監督する関係を取り上げて「ガバナンス不全」と批判。経営陣が自身の保身を優先することで、大手同士の経営統合など、適切な検討ができていないと問題視していた。

株主提案では鶴羽樹会長(82)の退任などを求め、ツルハとの委任状争奪戦が繰り広げられた。鶴羽家側の持ち分比率は1割以下と少なく、ツルハにとって苦しい戦いが想定される中、カギを握るのが大株主として13%超を有するイオンだった。

イオンは1995年からツルハと資本提携を結んできたが、経営に積極関与する姿勢ではなかった。イオンを中心に医薬品のPB供給等で協力するハピコムグループにツルハが所属する程度で、緩やかな連携にとどめてきた。

しかしツルハ株主総会の9日前、イオンは「会社提案に賛成する」と表明。同時に「大手同士の再編の重要性や、地方のドラッグストアの再編の重要性は、当社も認識している」と言及した。結果的にツルハは株主総会で勝利を収めたが、「イオンはツルハにかなり恩を売った形」(競合大手幹部)となった。

その頃からイオンは、ツルハに急接近していく。「昨夏から関係をもっと深めることについて協議を始めた」と、記者会見でイオンの吉田昭夫社長は明かした。オアシスの株主提案の時期と重なるが「オアシスがどうこうではなく、理念が合わさったため」(吉田社長)と答えた。

ツルハは独自路線を貫けるか

イオンによるツルハの子会社化が実現すると、ドラッグストア部門は“稼ぎ頭”となる。イオンの2022年度の営業利益2097億円のうち、総合金融の603億円、デベロッパー事業の452億円に次いで、ウエルシアは448億円を稼ぐ。化粧品や医薬品を取り扱うドラッグストアは、食品スーパーより利益率が高い。同年度のツルハの営業利益は455億円で、のれん償却次第だがイオンのポートフォリオ改善が期待される。

ツルハがイオンと組むメリットとしては、PB開発やアジア展開の連携などが挙げられる。「上場会社として経営の独立性は保たれるが、今後は3社共同で戦略を検討していくことになる」(鶴羽社長)。

実際にイオン子会社となれば、独自路線を貫けるかは不透明だ。流通業界を長年担当しているアナリストは「イオンの子会社になり、収益性が改善した会社はごくわずか。資本を握られてしまえば、将来的にツルハもイオンのグループ内再編に巻きこまれる可能性も否定できない」と指摘する。

2兆円規模のドラッグ連合結成で得られるスケールメリットは大きい。電力の一括仕入れや物流の効率化などで採算改善が期待される。さらに両社とも化粧品や医薬品の売上構成比が高く、商品の帳合(仕入れ条件)を一致させれば粗利率の改善も期待できる。

ある卸売業幹部は「帳合が厳しい方向に流れることは間違いなく、苦しくなる」と懸念する。ツルハの地盤である北海道は、ウエルシアにとって手薄エリアであり補完関係もある。

一方で「ドラッグストア業界は成熟期になり、価格競争の激化や人口減少により競争は一段と厳しくなっている」(松本社長)。ツルハとウエルシアが主戦場とする郊外はオーバーストア状態で、1店舗当たりの採算性が低下傾向にある。

コスモス、マツキヨ、スギの三つどもえ

足元では物価高騰に伴い、食品を軸に「毎日安売り」をうたう業界4位のコスモス薬品が、地盤の九州から猛烈な勢いで北上を進めている。ツルハの店舗が多く利益頭の東北では、中堅ドラッグの薬王堂HDが「毎日安売り」で勢いを増しており、競争環境は厳しさを増す一方だ。

都市部の好立地は、業界3位で2021年に経営統合したマツキヨココカラ&カンパニーが押さえている。利益率の高い医薬品や化粧品が都市部では売れやすく、インバウンドの恩恵も受けやすい。

顧客データを生かしたマーケティング力にも定評があり、花王は「新ヘアケアブランドはマツキヨココカラなどで先行発売し、顧客IDを活用しながらマーケティングを一緒に行っていく」(ヘアケア第1事業部の野原聡ブランドマネジャー)。ライバルとは一線を画す立ち位置を確立している。

2月27日には、業界6位のスギHDが阪神調剤薬局などを展開する売上高2200億円規模のI&Hの買収を発表。上位争いに躍り出た。

かねて鶴羽社長は、ほかの小売業界のように「最終的に2~3社程度になるという気持ちで取り組んでいきたい」と語っていた。2兆円規模の巨大なドラッグストア連合の誕生は、本格的な業界再編の呼び水となるのか。イオン傘下入りを選んだツルハの今後は、波乱含みだ。

伊藤 退助:東洋経済 記者

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