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「歳をとれば脳の働きは弱まる」と思う人の大誤解 新しい情報を入れれば一生に渡り変化し続ける

東洋経済オンライン / 2024年4月15日 14時0分

人間は歳をとるほど賢くなるだろうとは、私はずっと前から信じていたことです。歳をとるほど経験が増え、知識も増えるからです。そして、『ファウスト』の中で、悪魔メフィストフェレスが、つぎのように言っているからです(注1)。

Der Teufel, der ist alt, So werdet alt, ihn zu verstehen!
(「悪魔は年寄りだ。だから、歳をとらないと悪魔の言葉は分かりませんよ」)

メフィストの言葉が正しいとすると、「若い人には世の中の仕組みは理解できない」ということになります。

ゲーテ自身も、エッカーマンとの対話で、「歳をとると、若いころとはちがったふうに世の中のことを考えるようになるものだ」と語っています(注2)。

私も、この歳になってから、やっと世の中の仕組みが分かってきたような気がします。ほんの少しずつであり、もちろんゲーテには及びもつきませんが、メフィストフェレスは及第点をつけてくれるでしょうか?

(注1)Johann Wolfgang von Goethe, Faust II, Vers 6815 ff

(注2)エッカーマン『ゲーテとの対話』(第2部1829年12月6日)、山下 肇訳、岩波文庫・改版、1968年

上に述べた信念を裏付けるもう一つの例を示しましょう。

1984年のアメリカ大統領選で、共和党候補はレーガン大統領、民主党候補はモンデール前副大統領でした。テレビ討論会で、ボルチモア・サンの記者がレーガン大統領に質問します。

「年齢の問題を争点にするつもりはない」

「あなたはすでに歴史上最高齢の大統領です。モンデール候補との討論の後、あなたは大変疲れた様子だったと、あなたのスタッフは話しています。ところで、ケネディ大統領は、キューバ危機の際に何日も眠れなかったそうです。そうしたことになった場合、あなたのように高齢な方は、激務に耐えられないということはないでしょうか?」

レーガンは、静かに答えます。「そんなことは決してありません」。ここで一息つき、深刻な表情で、つぎのように続けました。

「私は、年齢の問題を政治的な争点にするつもりはありません。したがって、私は、対立候補の若さと経験のなさを、政治的に利用しようなどとは考えていないのです」

会場は爆笑に包まれ、モンデールも思わずつられて笑ってしまいました(注)。

レーガンは続けて、「セネカだったかシセロだったかが言ったとおり、シニアが若者を指導しないと、国家は成りたたないのです」と言ったのです(即興で、です)!

追い込もうとした記者は、レーガンに完敗しただけでなく、彼に政治的得点を与えてしまったのです。この選挙においてレーガンは、モンデールの地元であるミネソタ州を除く49州を獲得するという地滑り的・歴史的・大勝利を実現しました。

(注)このシーンは、下記で見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=0RtXmnUe9s0

野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授

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