「財布を落として…助けてください」と忍び寄る犯罪者…今も昔も、警察官までも騙される、同情を誘って善意を利用する犯罪「寸借詐欺」に要注意
集英社オンライン / 2024年5月8日 17時0分
自分が困っているかのように装い、相手の親切心や善意を利用して詐欺を働く犯罪は、今も昔も被害報告が後を絶たない。実際に発生した被害について元刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏に話を聞いた。
【画像】元刑事が教える見知らぬ人にお金を貸す場合にやるべきこと
人の善意を利用した犯罪とは
2024年4月10日、山形県鶴岡市で、職業不詳の40代の女が窃盗容疑で逮捕された。
女は車を停めていた70代の女性に対し、「車のバッテリーがあがってしまい、車屋さんに車を持っていかれた。子どもを迎えに行かないといけないので乗せていってほしい」と話し、同情を誘うような形で車に乗り込んだ。70代女性は市内の商業施設で女を降ろした後、車に置いてあったはずの現金20万円がなくなっていることに気づく。通報を受けた鶴岡署は、女が現金を盗んだとみて逮捕に至った。
逮捕された女が現金の所在をなぜ知っていたのか、計画的な犯行か、偶発的であったのかは不明だが、犯行は相手の善意を利用して行なわれたものといえよう。
過去には警察官も被害…狡猾な“寸借詐欺”の手法
善意を利用した犯罪は枚挙にいとまがない。その代表例として「財布を落としてしまった」「ひったくりに遭い手元にお金がなく帰れない」と困った様子を装い、少額の現金をだまし取る“寸借詐欺”がある。キャッシュレスの波が押し寄せる現代でも、いまだに寸借詐欺の被害はあると小川氏はいう。
「たとえば、2020年9月、福岡市で『財布や携帯電話、身分証入りのバッグを盗まれた。交通費と宿泊するホテル代を貸してほしい』と若年層をターゲットにして、10人以上からお金を騙し取ったとして、30代の男が逮捕された事件がありました。
犯罪者は相手の財布の紐を緩めるために、『少額だから貸してもいい』と思わせる金額を提示します。『返すつもりだった』という弁明を崩し詐欺罪と断定することも難しく、事件として顕在化するのはごく一部。泣き寝入りするケースがほとんどなんです」(小川氏、以下同)
そしてなんと過去には交番で警察官が“寸借詐欺”の被害に遭い、その警察官から調書を取ったことがあると自身の経験を踏まえながら小川氏は語る。
「1990年代のことです。神奈川県の交番にある男がやってきて『財布を落としてしまった。東北に帰省しなければならず、交通費がなくて困っている』というのです。当時、交番には同様の事案に備えて1000円〜2000円程度の現金が常備されていましたが、東北までの費用となると当然足りません。懇願する男を不憫に思った警察官は、ご飯代も含めて約2万円をポケットマネーから貸してあげました。
ところがその後、近辺3つの交番で同様の経緯で男が警察官からお金を借りていたことが発覚。財布の遺失届の名前は偽名で、住所はでたらめ。その後、男は逮捕されたものの、かなりの数の余罪があり、被害者は全員警察官でした。警察官を騙す犯罪者はいないだろうという潜在意識により、見事に騙されてしまったのです」
善意を利用した詐欺の多様性
悪どい詐欺が横行するのは、災害時などの非常事態でもよく見られるという。
「地震など大規模な災害が発生した際に義援金を詐取する“募金詐欺”という犯罪も善意を利用した犯罪です。今年1月に発生した能登半島地震に便乗し、自治体を装って義援金や寄付を集めるという悪質商法が多数発生しました。国民生活センターが注意を促していましたし、不審な電話や訪問には注意が必要です」(小川氏、以下同)
また、息子や孫になりすまし、高齢者から巨額なお金を騙し取る『オレオレ詐欺』も、子供を助けたいという親の善意を利用した犯罪だといえよう。被害金額の大きさにかかわらず、この手の善意を利用しようとする犯罪は一定の被害数がある。
人の善意を踏みにじるような人もいるが、なかには本当に困っている人もいるはずだ。“寸借詐欺”の疑惑があった場合、どう対応すべきだろうか。
「現在は誰もがスマホを持ち歩く時代なので、当人が知り合いに連絡したり電子マネーを使用したりして、当人自身で対処するのが一般的です。なかにはスマホが使えず現金の持ち合わせもなくて困っているというケースもありますが、その場合は交番へ誘導するのがいいでしょう。
交番が近くになくてどうしても困っているというのであれば、お金をあげるという心持ちで渡すのがいいと思います。許容できない金額は渡さないこと。
『念のため身分証と顔写真を撮影してもいいですか? お金が帰ってきたら写真は削除します』と提案し、拒否するようであればこちらも対応できないと判断するのもひとつの方法です」
今回紹介した事例以外にも善意につけ込む犯罪は残念ながらある。自衛のために警戒心を持ちながらも、助け合いの精神を大切にしたいものだ。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock
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