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質問「最近のニュースで大きな出来事は?」の答えでわかる…単なる物忘れか重大な認知症か見分ける科学的方法

プレジデントオンライン / 2024年3月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dusan Stankovic

人の名前が出てこないなど、物忘れの多さは認知症の前兆なのか。藤田医科大学客員教授で代謝機能研究所所長の今井伸二郎さんは「物忘れには病気が原因で起こるケースもあるが、単なる物忘れは年齢とともに増加する。また、単なる物忘れが多い人が認知症に移行しやすいという学術的データもない。物忘れは脳の神経細胞の一つのみが失われるが、認知症は脳細胞の塊が失われてしまうため、出来事全ての記憶が失われる」という――。

※本稿は、今井伸二郎『最新科学で発見された正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■神経疾患に効果的な医薬品は少ない

脳・神経は体の全ての器官を制御・維持するために必要不可欠なシステムです。運動はもとより感情・情緒・理性などヒトの精神活動においても重要な役割を果たしています。老化により脳・神経機能は衰え、認知症などの疾患が発症してしまいます。

知的活動に神経が深く関与していることは広く知られていますが、神経細胞においての具体的な役割はあまり分かってはいません。このため、認知症やうつ病などの神経疾患には効果的な医薬品も少なく、製薬会社も二の足を踏む分野になっています。というのも、効果を確認するための評価方法が少なく、特に細胞を用いた評価系が少ないので、動物モデルによる試験に頼らざるを得ないためです。

神経疾患を評価するための動物モデル試験は行動薬理試験といって、動物の記憶や学習能を、その行動から評価します。例えば、迷路試験。うまく通り抜けると餌が得られるような迷路を作り、この迷路に同じ動物を通し、餌に到達できる時間が短縮できるかどうかを記録することで学習能を評価します。

このように、動物の評価は手間がかかり、評価には試験者の経験が必要で時間もかかるので、神経疾患に対する食品成分の評価は難しいといわれています。

しかしながら、このような状況にもかかわらず、食品成分での神経疾患の予防を期待する声も強く、一部の研究者によりその可能性を模索する努力がなされています。そこで、この項目ではそれら研究の成果について解説します。

■脳神経疾患について

まずは、脳神経疾患についての概略です。

神経系とは、神経細胞(ニューロン)が連続し形成される神経を通して、外部情報の伝達と処理を行う動物の器官の総称です。

神経系のうち、脳神経とは脊椎動物の神経系の器官であり、直接脳から伸びている末梢(まっしょう)神経の総称を指します。

これに対し、脊髄から伸びている末梢神経のことを脊髄神経とよびます。ヒトなどの哺乳類の脳神経は左右12対存在し、それぞれに三叉(さんさ)神経、迷走神経などの固有の名称が付けられています。これら神経系に器質的な異常が生じ、その結果精神活動に影響を示してしまうのが、脳・神経疾患です。

脳・神経疾患には機能性疾患である、認知症、パーキンソン病(本書では認知症に含めます)、うつ病、てんかんなどがあります。一方、脳血管障害疾患として脳梗塞、頸部(けいぶ)頸動脈狭窄(きょうさく)症、くも膜下出血、もやもや病などが挙げられます。

認知症の代表的な疾患がアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は認知症の中で一番多いとされており、男性よりも女性に多く発症します。

また脳血管障害性認知症の患者数があまり増加していないのに対して、アルツハイマー型認知症は明確な増加傾向があります。発症年齢による分類で65歳を境に早発型と晩期症型(65歳以降)とに大別されます。

早発型のうち18歳~39歳のものを若年期認知症、40歳~64歳のものを初老期認知症といいます。早発型アルツハイマー型認知症は通常の認知症とは異なり、遺伝性の疾患であり、常染色体の優性遺伝を示す家族性アルツハイマー型認知症です。

■物忘れと認知症の違い

ところで、最近テレビコマーシャルを見ていて気になることがあります。ドラマ仕立ての一場面ですが、初老の夫人が買い物をして、お金を支払った後、商品を受け取らず帰ろうとする場面です。その「うっかり」に対してナレーションが入ります。「うっかり」をそのままにしないように注意喚起するものです。

いかにも単なる物忘れが認知症に進行してしまうかのような言い方です。単なる物忘れは認知症の初期症状ではありません。物忘れには、病気が原因で起こる場合と、病気の原因がないにもかかわらず忘れてしまう二通りがあります。

本稿ではこの病気が原因でない物忘れを、単なる物忘れと表現します。

単なる物忘れは年齢とともに増加することは事実ですが、単なる物忘れが多い人が認知症に移行しやすいという学術的データはありません。単なる物忘れは、脳の器質的な異常から生じる現象ではないので、ある程度の年齢の人であればあまり気にしすぎず、物忘れをなくそうとするよりもメモをとったり、写真に収めたり、忘れてしまっても大丈夫な対策を立てるほうがよいでしょう。

しかし、一般の人であれば物忘れと認知症による記憶障害とを簡単に識別はできません。日常生活に支障をきたすような場合や、進み方が速いなどの場合は認知症などの病的な物忘れを疑う必要があり、進行を止める手立てをしなければなりません。

物忘れをしている高齢者のイラスト
写真=iStock.com/matsuriri
※イラストはイメージです - 写真=iStock.com/matsuriri

■物忘れと記憶障害を簡単に判別する方法

単なる物忘れと認知症による記憶障害とを簡単に判別する方法を紹介します。認知症と物忘れの違いは区別が困難に思いがちです。しかし、認知症による記憶障害と老化による単なる物忘れにはその内容に違いがあります。

図表1のように認知症における記憶障害は記憶の断片的な喪失ではなく、体験全体の記憶を喪失してしまうという特徴があります。また、認知症の場合には記憶障害の自覚がないことも大きな特徴といえます。

【図表1】物忘れと認知症の違い
出典=『最新科学で発見された正しい寿命の延ばし方』

そこで、両者の違いを確認するテクニックとして、「最近のニュースで大きな出来事を教えてください」と尋ねると単なる物忘れの場合は何らかの回答があるはずです。

ところが、認知症の場合は「最近はニュースを見ない」など、取り繕った話をする場合が多いといわれています。認知症による記憶障害を疑う場合は図表1の項目に照らし合わせてみてください。これらの項目に多くあてはまる場合は医療機関での検査を受けるようにしてください。

認知症による特徴
・ やる気がなく、だらしなくなった
・ ささいなことで怒りっぽくなった
・ 同じことを何度も聞いたり話したりする
・ テレビを見ても内容が理解できない
・ 約束をすっぽかす
・ 近所でも迷子になることがある
・ 趣味や日課に興味を示さなくなった
・ 今日が何月何日か分からない
・ 料理、計算、運転などのミスが目立つ
・ ついさっき電話で話した相手の名前が分からない
・ 置き忘れや片付けたことを忘れ、常に探し物をしている
・ 財布を盗まれたなどと人を疑うことがある

このように認知症と物忘れには明らかな違いがあります。これを少し科学的な違いで説明してみましょう。

■認知症と物忘れの科学的な違い

本来記憶というのは、コンピューターで記憶するのと同様、目で見たことや、出来事を暗号化して神経細胞に留めておくことにほかなりません。神経細胞の一つ一つが暗号を記憶し、それを細胞間のネットワークで再構成することで、記憶の読み戻しをしています。

つまり、コンピューターでいうメモリーチップのプラスとマイナスの信号を二進法で記録し、それを言葉などの表現に変換しているのです。まさに、人間の脳でも同じような変換が行われ、記憶を形に戻されているわけです。

物忘れは神経細胞の一つのみが失われるので、ある事象だけが思い出せない現象です。

今井伸二郎『最新科学で発見された正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)
今井伸二郎『最新科学で発見された正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)

一方の認知症は脳細胞の塊が失われてしまうため、記憶の一部が失われるのではなく、記憶のネットワーク全体、つまり出来事全てが失われてしまうのです。とあるテレビ番組を見て、主人公の名前を思い出せないのが物忘れですが、認知症ではそのドラマ全体の記憶が失われます。

言い換えれば、物忘れは一部の記憶の喪失、認知症は全体の記憶の喪失です。物忘れは自分の名前など強く刻まれた記憶を忘れることはありませんが、認知症は自分の名前や自分の子どもの名前さえ忘れてしまいます。

このように、物忘れは病気ではありませんが、認知症は明らかな病気といえるのです。

ちなみに、お酒を飲みすぎると、そのときの記憶がなくなり二度と思い出せない場合がありますが、これは物忘れがまとめて起こった現象と思えば分かりやすいと思います。かなりの量の細胞がアルコールにより死滅し、記憶が失われていると思ってよいでしょう。

【まとめ】
1 単なる物忘れは認知症の初期症状ではない
2 認知症の大きな特徴は、記憶障害の自覚がないこと

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今井 伸二郎(いまい・しんじろう)
代謝機能研究所所長、東京工科大学名誉教授、藤田医科大学客員教授
1984年、東京大学大学院農学系研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。日清製粉株式会社中央研究所勤務。2002年博士(医学)(東京医科歯科大学)。2005年東京農工大学非常勤講師。2010年静岡県立大学客員教授。2014年東京工科大学教授。著書、監修に『機能性食品学』(コロナ社)、『花粉症等アレルギー疾患予防食品の開発』(シーエムシー出版)、『最新科学で発見された正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)がある。

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(代謝機能研究所所長、東京工科大学名誉教授、藤田医科大学客員教授 今井 伸二郎)

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